シアター・テレビジョン

シアター・テレビジョン」というスカパーのチャンネルがある。名前のとおり劇場中継専門のチャンネルで、小劇団から大手まで、またオペラやバレエの公演も放送してきた。私はもっぱら小劇団の舞台中継を見るために契約している。先日、ひさしぶりにチャンネルを合わせると、なぜか舞台中継ではなく、西尾幹二が登場して「日本は神の国」だと話しはじめた。イスからころげおちそうになった。なにこれ。チャンネルを確認するとやはり「シアター・テレビジョン」なんだけど、番組表には、志方俊之が日本の核武装をとなえる講座や笹川陽平による日本人のナショナリズムを鼓舞する講座がずらっとならんでいて、一日の半分近くを国粋主義の言論番組が占めている。肝心の劇場中継のほうはほとんど消えてしまっている。いったい何事かとネットで調べてみたところ、今年4月にチャンネルの経営が変わり、新しく社長になった浜田マキ子の意向で右翼の広報メディアと化したとのこと。近頃もっともおどろいた出来事である。

→ 北野誠の番組降板以上の衝撃 シアターテレビジョンが右翼に電波ジャック
→ シアター・テレビジョン改悪
→ Wikipedia「浜田マキ子」


視聴者のみなさま怒ってます。そりゃあ怒るよなあ。「シアター・テレビジョン」は日本で唯一の劇場中継専門チャンネルだっただけに、熱心な演劇ファンや小劇場関係者にとってショックは大きいだろう。ネットの声の中には、「私は日本を神の国だと思っているし、西尾幹二の発言にも概ね賛同しているが、この番組改編は演劇に関わる者として許せない」というのまであった。さぞや複雑な心境だろう。ただまあ、あくまでCSチャンネルだから、「特定少数のためのピンポイント放送」として、もし本当に視聴者の需要があるなら一日中「神の国講座」をやっていてもかまわないし、「インターナショナル」と労働歌を24時間流しつづけるチャンネルがあってもかまわないし、UFO党による「開星論」をひたすら放送するチャンネルがあってもかまわないように思う。それほど熱心な演劇ファンでない私は、チャンネルを解約するだけのことである。



もっともシアター・テレビジョンの右翼メディア化にはふたつの問題がある。ひとつめは言うまでもなくこれが「シアター・テレビジョン」であることだ。肝心の劇場中継をわきにおいやった放送内容は、看板に偽りありということになる。放送内容の半分近くを国粋主義の広報にあてるというのならば、既存のチャンネルを改変するのでなく、新規にチャンネルを立ち上げて、「神の国チャンネル」とでも名づけるべきである。劇場中継を期待している演劇ファンが現在の看板に偽りありの「シアター・テレビジョン」に怒るのは当然である。かつてあったチャンネル桜の場合、日本文化の紹介というのはあくまで名目だけで、放送内容はすべて国粋主義者による言論番組だったが、こちらはもっぱら「右翼チャンネル」として認知されてきたので、十年以上にわたって舞台中継を続けてきたシアター・テレビジョンと同列には論じられない。



もうひとつの問題は、CSチャンネルといっても公の電波を使う以上、国の認可が必要という制度になっており、ある程度の「公共性」が求められるという点である。この点で右翼のアジビラとは性質が異なる。「公共性」というあいまいな概念がいったい何なのか、私にはその正体がよくわからないが、ひたすらノラ猫の首を切断する変質者による変質者のための実録チャンネルや手足のないダルマM奴隷出演のウルトラハードSM専門チャンネルについては、おそらく認可が出ないだろう。そういう意味で、「神の国チャンネル」も「労働者インターナショナル」も「UFO党オリオン座通信」も新規申請の場合、認可されないのではないか。じゃあなんでシアター・テレビジョンはあの内容で放送してんのよということになる。というわけで、さっさとチャンネル契約を解除しよう。

→ シアター・テレビジョン

→ 日本文化チャンネル桜(現在はCSから撤退し、インターネット放送へ移行)