ウィニー裁判

以前、授業で取り上げたウィニー裁判についてまとめてみる。裁判は最高裁に上告され、現在も進行中。この種のテクノロジーをテーマにした場合、詳しい生徒は私よりもずっとよく知っているし、興味のない生徒は全く知らない。取扱要注意物件である。授業でこの裁判を取りあげた際には、数名の生徒から、さっぱりわからないという顔で「ウィニーってインターネットとは別の無線通信かなんかのことですか?」という質問まであったので、インターネットがいくつものサーバーを介してバケツリレー方式でデーターをやり取りしている基本的なしくみから解説した。文章がまとまったら、クロ箱のWebサイトにも掲載するつもり。授業での生徒の反応は、有罪が3割から4割、無罪が6割から7割とかなり拮抗している。

 ウィニー裁判 − ウィニー開発者は著作権侵害の幇助にあたるのか −
 あなたはウィニーを開発した金子勇被告が著作権侵害のほう助(手だすけ)にあたると考えますか。以下の資料を読み、自分が裁判官になったつもりでこの裁判を判断しなさい。


1.ウィニーの特徴

  • 2002年に東大助手の金子勇氏によって開発され、フリーソフトとしてネット上に公開された。
  • ウィニーはパソコンとパソコンをインターネット経由で結び、データーのやりとりができるソフトで、「ファイル共有ソフト」「ファイル交換ソフト」「ピア・トゥ・ピア(P2P)ソフト」と呼ばれる。
  • ブラウザーと異なり、サーバーを経由せずにパソコン同士を結ぶため、ネットワークの混雑に関わりなくデーターのやりとりがはやく、ネット上のサーバーにも負担をかけない。
  • ウィニーはきわめて高度な技術で作られており、今後、ウィニーのプログラムをネット電話や動画配信に応用することも期待されている。
  • ウィニーの入っているパソコンに、自分たちで作った自主映画やバンド演奏の動画データーを入れておけば、手軽に世界中の人たちに公開できるなど、使い方によっては大きな可能性をもったソフトといえる。
  • しかし、実際にはウィニーユーザーのほとんどが違法コピーの道具としてウィニーを使っているとみられ、著作権侵害の温床になっている。ウィニーをつかった違法コピーによって、音楽産業や映画産業が受けた損害は巨額のものになる。
  • ウィニーにはユーザーのIPアドレスを暗号化する技術が組み込まれているため、ウィニーをつかって違法コピーをネットで公開していても、それがどこの誰かを特定するのはきわめて難しく、警察では取り締まりに苦慮している。
  • P2Pソフトは、他人のパソコンとネット経由で直結することになるので、コンピューターの知識のない人が安易に使うと、自分のパソコンからデーターが流出したり、ウィルスに感染することになる。そのため、扱いには注意が必要。実際に、ウィニーが原因によるデーター流出事件は多発している。

 → Wikipedia「Winny」


2.ウィニーYoutubeのちがい


3.ウィニー裁判の経緯


4.ウィニー裁判のポイント

  • ウィニー自体は技術的に中立であり、ウィルスのような有害ソフトとは見なされていない。
  • 金子被告は、主犯の二人とは全く面識がない。
  • 金子被告は2002年のウィニー公開時にすでに違法コピーの道具として使われることをある程度予測していた。その様子は、ネット上の掲示板の「悪用しちゃダメだよ(笑)」という書き込みや「悪用できるようなソフトは特に宣伝しないでも簡単に広まるね」という姉とのメールのやりとりからもわかる。
  • ただし、ネット掲示板での「悪用しちゃダメだよ(笑)」という被告の発言は、ウィニーを使った違法コピーをしないよう呼びかけるものと解釈できる。
  • ウィニーが違法コピーのツールとして使われることを予測していたにもかかわらず、金子被告は違法コピー対策を行わないままウィニーをネット上に公開し、フリーソフトとして自由にダウンロードできるようにした。
  • 一方、金子被告自身は、ウィニーを違法コピー目的に開発したわけでなく、また、ウィニーを使って違法コピーもしていない。このことは警察に押収された彼のパソコンからも明らかになっている。


5.検察側の主張
 被告はウィニー開発時にこのソフトが違法コピーの道具として使われることをあらかじめ予測していた。そのことは、ネット上の掲示板の「悪用しちゃダメだよ(笑)」という書き込みや「悪用できるようなソフトは特に宣伝しないでも簡単に広まるね」という姉とのメールのやりとりから立証されている。それにもかかわらず、被告はなんら違法コピー対策をとらず、ウィニーフリーソフトとしてネット上に公開した。これはあまりにも無責任な行為である。その結果、現在、ウィニーユーザーのほとんどは、違法コピーを目的に利用しており、ウィニー著作権侵害の温床になっている。したがって、金子被告の行為は、これから殺人を行う者に拳銃や刀剣を「ご自由にどうぞ」と貸し与えるのとなんらかわらない。そうした行為が殺人ほう助罪にあたるのと同様に、違法コピーの道具として利用されるのを予測していながら、なんら対策をとらず、そのままネット上にウィニーを公開した金子被告の行為は、著作権侵害のほう助罪にあたる。


6.弁護側の主張
 ウィニー自体は、ウィルスのような他人に迷惑をかけるためのプログラムとは異なり、上手に利用すれば大きな可能性をもったソフトである。また、開発者の金子被告も、著作権侵害を目的にウィニーを開発したわけではなく、事前に悪用しないようネット上の掲示板で呼びかけている。たしかに現状では、ウィニー著作権侵害の温床になっているが、それはユーザーのモラルの問題であって、開発者に現状の責任を帰すことはできないはずである。金子被告が著作権侵害を目的にウィニーを開発していないことは、ウィニーを悪用しないようネットで呼びかけており、また、彼自身もそうした違法コピーのためにウィニーを使っていないことからも明かである。そもそも、金子被告は主犯の二人とは全く面識がなく、二人が著作権侵害を行ったことによって、いかなる利益も得ていない。それにもかかわらず、金子被告に著作権侵害のほう助が適用されるとしたら、それは包丁を使った殺人事件で包丁の製造業者が殺人ほう助に問われるのと同じであり、合理性を欠いている。


7.判決

ウィニー」開発者に逆転無罪 大阪高

朝日新聞 2009年10月8日10時9分
 インターネットを通じて映像や音楽を交換するソフト「ウィニー」を開発し、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東京大大学院助手、金子勇被告(39)の控訴審で、大阪高裁は8日、罰金150万円とした一審・京都地裁判決(06年12月)を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した。
 小倉正三裁判長は「著作権侵害が起こると認識していたことは認められるが、ソフトを提供する際、違法行為を勧めたわけではない」と指摘。価値が中立な技術を提供しただけでは、幇助罪は成立しないと判断した。
 懲役1年を求刑した検察側は「刑が軽すぎる」として、被告・弁護側は無罪を主張してそれぞれ控訴していた。
 金子元助手は02年5月、自ら開発したウィニーをインターネットで公開。03年9月、松山市の無職少年(当時19)ら2人=著作権法違反の罪で有罪確定=がウィニーでゲームソフトや映画をダウンロードし、不特定多数へ送信できるようにした行為を手助けしたとして起訴された。
 控訴審では一審同様、「ウィニーの開発目的」や「技術の提供が犯罪の幇助にあたるか」が争点となった。
 控訴審で検察側は、金子元助手が自らのホームページに「ネットでは情報は無償でのやりとりが当たり前」という趣旨の書き込みをしていたことなどから、「著作権侵害を蔓延(まんえん)させる目的でウィニーを開発・公開した」と主張。ウィニーで音楽ファイルなどが違法に流通したことによる経済的損失は推計約100億円にのぼるという社団法人「コンピュータソフトウェア著作権協会」(ACCS)の06年調査も踏まえ、開発者の違法性の度合いはウィニーを悪用した者よりもはるかに大きいと述べていた。
 これに対し弁護側は、金子元助手がウィニーを違法に利用しないようホームページなどで呼びかけていたとし、「ウィニーの開発目的は、新しいファイル共有ソフトのアイデアの検証にあった」と反論。ウィニーで一定数の違法ファイルが流通している現状は認めつつも、元助手個人が利益を得たこともないと強調した。そのうえで「あらゆる技術は悪用される可能性があり、開発者を罰するのは技術の発展を阻害するもの」と批判していた。
 一審判決は、金子元助手について「著作権侵害を認識していたが、その状態をことさら生じさせることは企図せず利益も得ていない」と述べ、罰金刑を選択していた。

ウィニー裁判 無罪判決は出たけれど

東京新聞 社説 2009年10月9日

 ファイル共有ソフトウィニー」の開発者が逆転無罪となった。判決は開発者の創造性に一定の理解を示した。一方で違法コピーのはんらんは続いており、何らかの歯止めのルールが必要だ。
 元東大助手の金子勇被告が開発したウィニーは、サーバー(ネットワークの中心となるコンピューター)に依存しないで利用者が互いに情報を交換できる新しい技術を応用している。専門家によると、ウィニーはこの分野の新ソフトとして高く評価され、インターネット電話や動画配信などへの応用が期待できるという。被告を有罪とした京都地裁判決も応用可能で有意義なソフトと認めている。
 焦点は、金子被告がウィニーをホームページ上に公開したことをどう判断するかだった。多くの利用者が画像や音楽などの違法コピーに利用。一審は悪用を容易にしたと認定し、著作権法違反ほう助で有罪とした。
 しかし、大阪高裁は悪用する人間が出ることを認識しているだけではほう助に当たらず、悪用を勧めて提供する場合に限ると、ほう助の成立要件を厳格に判断した。一審の有罪判決には各界から「ソフト開発を萎縮(いしゅく)させる」などの批判があり、高裁が技術開発の自由に配慮したといえそうだ。
 だが、ウィニーによって何が起きているかをみれば、放置していい事態でないことも明らかだ。
 著作権団体の調べでは、ネット利用者のうち一割がファイル共有ソフトを利用。ウィニーで流通したファイルのうち48%が著作物で、そのうち97%が著作権者に無断で流出させたものだった。
 また、ウィニーを通じコンピューターウイルスに感染して起きる情報流出も深刻。昨年度は流出事件の37%を占め、神奈川県の県立高校の全生徒十一万人分の個人情報が漏れたケースもあった。
 著作権法は、著作物を無断でネットに流すことを禁止しているが、実際に摘発される例は少なく、年間三、四件のペースにとどまっている。無法状態がいつまでも放置されてはなるまい。
 ソフトの開発と公開に関してのルールづくりも検討したい。何よりも開発者自体が社会的責任を痛感してほしい。影響がはっきりするまで公開を限定するような慎重さが求められる。金子被告は「どう使うかは自由だが、ちゃんと使ってほしい」と述べている。利用者は著作権の重要性をいま一度理解すべきだ。

Winny開発者に有罪判決
著作権法違反(公衆送信権の侵害)ほう助の罪に問われていた「Winny」開発者に、京都地裁が有罪判決。

ITメディアニュース2006年12月13日 10時13分

 P2Pファイル交換ソフトWinny」を開発し、著作権法違反(公衆送信権の侵害)ほう助の罪に問われていた金子勇被告の判決公判が12月13日、京都地裁であった。氷室真裁判長は罰金150万円(求刑・懲役1年)の有罪判決を言い渡した。
 金子被告は、Winny開発は純粋な技術的見地から行ったもので、著作権侵害を増長させる意図はなかった、と無罪を主張。検察側は、金子被告が著作権侵害を助長する目的でWinnyを開発したと主張していた。
 判決公判は午前10時開廷。小雨が降りしきる中、約60席の一般傍聴券を求めて200人以上の傍聴希望者が朝早くから列を作った。

インターネット事件簿 第3回 京都府警がWinnyに叩きつけた挑戦状
「われわれはすべてを解き明かした」

佐々木 俊尚 インターネットwacth (2004/1/7)

■国内トラフィックが2割近く減少するほどの衝撃
 ファイル交換ソフトWinny」のユーザーが逮捕された事件は、インターネットの世界に激震を与え続けている。インターネットマルチフィードが提供しているIXサービス「JPNAP」のサイトを見ても、Winny逮捕劇があった2003年11月末以降、国内のトラフィックは落ち込んだままとなっていることがわかる。年明けに若干増加しているものの、ファイル交換ユーザーが摘発の不安に震え上がっている様子が、グラフから浮かび上がってくるようだ。
 捜査関係者が、声を潜めて語る。
 「Winnyの作者は、某有名国立大学の助手を務めている人物です。学内での立場もあり、今回の事件で家宅捜索を受けたことで開発をこれ以上進めるのは無理なのではないでしょうか」
 また、事件を手がけた京都府警の捜査幹部は、
 「Winnyの匿名性は完全に暴かれたといっていい。今後、Winnyの仕組みを使ってファイル交換を行なえば、いつでも警察に摘発される状態になるということだ」
 と誇らしげに胸を張った。果たして、今後“ファイル交換”というアンダーグラウンドな文化はどうなるのだろうか?

■事件のあらまし
 事件のあらましを振り返ってみよう。
 摘発が行なわれたのは2003年11月27日。松山市の無職の少年(19歳)と群馬県高崎市の自営業の男性(41歳)の2人がほぼ同時に逮捕された。
 少年は任天堂の「スーパーマリオアドバンス」とハドソンの「ボンバーマンストーリー」などのゲームソフトをWinnyで提供、自営業男性は米国映画「ビューティフル・マインド」などの映像コンテンツをWinnyに放流したのが直接の容疑事実となった。いずれも著作権法違反(公衆送信権侵害)に問われた。
 また逮捕当日、京都府警ハイテク犯罪対策室はWinnyの開発者の自宅も家宅捜索し、ソースコードなどを押収している。京都府警の公式発表によれば、逮捕されたふたりは聴取に対して「インターネットの世界で認められたかった」「有名になりたかった」と供述しているという。23日間の拘留後、男性は同じ容疑で京都地裁に起訴され、少年は家裁送致されている。


Winnyの“よくできた仕組み”とは
 問題は、なぜWinnyの匿名性が暴かれたのかということだろう。
 Winnyが匿名性を保持している仕組みは、非常によくできている。ユーザーがWinnyネットワークに放流しようとするファイルは、いったんユーザーのPC上ですべて暗号化され、キャッシュの形でハードディスクに保存される。
 Winnyのファイル交換では、このキャッシュをやりとりする形になる。そしてユーザーが求めるファイルを検索すると、検索クエリーが次々とネットワーク上を流れて行き、目的のファイルのありかを探す。巧妙なのは、ファイルが見つかっても、検索した側とファイルを持っている側は決して直接結ばれることはないということだ。
 直結してお互いのPC同士でファイルを送受信してしまうと、誰が違法ファイルを持っているのかがバレてしまうからである。Winnyはこうした方法を採らず、検索クエリーが流れていったネットワーク上のPCに次々とファイルを転送させていく。ファイルを落とそうとする人は、このネットワーク上のPCのどれかからファイルをダウンロードすることになる。
 だがそのPCの所有者も、自分のPCに何のファイルがあるのかはわからない。暗号化されているからだ。最初に誰かが放流したファイルは、Winnyネットワーク上を流れていって、人気のあるファイルであればあるほどあちこちに点在することになり、誰が最初に放流したのかはわからなくなる。
 かつて違法なファイル交換が「オフ交換」――つまり、インターネット上で情報交換を行ない、その後に実際に会ってCD-ROMなどを交換するという仕組みで行なわれていたころは、警察のおとり捜査によって摘発されたケースも少なくなかったと見られる。
 一般ユーザーのふりをしてメールなどで誘い出し、違法ソフトの入ったCD-ROMを交換しようとしたところで現行犯逮捕、という手法だ。おとり捜査は日本では違法のように思われているが、容疑者が最初から犯意があるような場合は合法的な捜査手法と判断されている。
 しかしいずれにせよ、Winnyでは違法ファイルを検索して検挙の目的でダウンロードしても、そのファイルを最初にアップロードした人間を捜すのは無理だと思われていた。直接キャッシュをやりとりする相手は、そのキャッシュが何のファイルか認識しておらず、犯意はない「善意の第三者」に近い存在と言えるからだ。


Winnyの匿名性は破られたのか?
 では、京都府警はどのようにしてこの難関をクリアしたのだろうか。取材に応じた京都府警幹部は、具体的な捜査手法については「言えない」と口を閉ざした。
 「一罰百戒の面から言えば、このようにしてわれわれはWinnyを解き明かしたのだということを説明したい気持ちはある。しかしその方法を明らかにしてしまうと、捜査への対策方法がまた編み出され、雑誌やWebサイトなどに『こうすれば警察の手を免れられる』といった手口の解説記事が載ってしまうといったことになりかねない。われわれがアナウンスすればするほど、逆にまたそうしたものを誘発してしまうわけで……諸刃の剣としかいいようがない」
 今回の摘発については、「逮捕された二人は、運が悪くて偶然捕まっただけだ」「他の事件で逮捕した容疑者にWinny利用を自白させて逮捕した」「Winnyソースコードを解析して暗号を解読した」など、さまざまな憶測がインターネット上に流れている。これらの憶測について幹部に聞くと、
 「われわれはWinnyの仕組みをきちんと解き明かしたことによって逮捕したのであって、偶然容疑者を見つけたとか、そういうことではない」
 と断言した。現在の司法制度では物証がなく、供述だけによる立件は認められておらず、「自白だけで逮捕する」というのは難しい。またWinny作者の家宅捜索は逮捕と同じ日で、押収したソースコードの解析によって(現在は行なわれている可能性は高いが)逮捕に至ったというのは時間的な整合性が一致しない。


■これからは、日本中の警察によって摘発が行なわれる可能性がある
 京都府警幹部は、
 「今回の摘発で、全国の都道府県警察から技術的な問い合わせをたくさん受けている。情報はすべての警察で共有するというのが基本なので、これからは日本中の警察によって摘発が行なわれる可能性がある」
 と話す。もっとも、今後Winnyユーザーの摘発が各地で進むかどうかは、実は若干疑問符のつくところではある。WinMXWinnyの摘発を行なった京都府警のハイテク犯罪対策室は、生活安全部の下にある。各都道府県警にある生活安全部はコンピュータ犯罪や悪徳商法、麻薬、少年犯罪などを専門にしているが、特に悪徳商法やコンピュータ犯罪については「初物」を意識する県警が非常に多い。
 「国内で初めて○○商法を摘発」「国内で初の○○犯罪摘発」といった記事が新聞やテレビに出るのを好むのである。今回、Winnyという超大型の「初物」は京都府警がモノにした。他の県警にとっては、京都の二番煎じでWinnyを追うよりは、他のコンピュータ犯罪を狙う方が警察内部での評価は高くなる。実際、2001年にWinMXのユーザー2人が京都府警に摘発された後、他の県警はWinMX摘発を積極的には行なっていない。


Winnyに代わる新たなファイル交換ソフトを求める動き
 一方で、インターネット匿名掲示板の世界では、Winnyに代わる新たなファイル交換ソフトを求める動きも出始めている。
 少し歴史のねじを巻き戻してみると、Winnyの開発がスタートしたのは、2002年4月。それまでファイル交換のメインストリームとして人気のあったWinMXのユーザーが逮捕されたのがきっかけだった。
 摘発したのは、今回のWinnyと同じ京都府警ハイテク犯罪対策室である。逮捕されたのは、杉並区内の大学生(当時19歳)とさいたま市の専門学校生(20歳)。WinMXを使い、アドビシステムズの「Photoshop 6.0」やジャストシステムの「一太郎」などを不特定多数に提供していた。このしばらく前、著作権法が1999年に改正され、実際にファイルが送信されていなくとも、送信可能な状態に置かれているだけで著作権侵害の罪を問えるようになった。これがファイル交換ユーザーにとっての恐怖の種となっている「公衆送信権侵害」という罪だ。
 ふたりは略式起訴処分になり、刑事裁判が行なわれなかったため、WinMXのユーザー逮捕がどのような捜査手法で行なわれたのかは今も明らかにされていない。だがWinMXは中央サーバーを介するハイブリッド型P2Pであり、サーバーのアクセスログなどを押収すれば容易にユーザーを特定できたであろうことは想像に難くない。実際、ファイル交換ユーザーの間ではこの事件後、中央サーバーを介さないピュアP2Pによるファイル交換システムを求める声が急速に高まった。


47氏の今後は……そして「ポストWinny」へ
 そんな声に押されるようにして登場してきたのが、Winnyだった。「2ちゃんねる」におけるその開発宣言は、今もさまざまなWebサイトに転載されている。
 <暇なんでfreenetみたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindowsネイティブな。少しまちなー>
 書き込みの番号から、後に「47」氏と呼ばれるようになった開発者がこの文章を「ダウンロード板」に書き込んだのは、2002年4月1日。約1カ月後にはジオシティーズにサポートサイトが開設され、ベータ版がリリースされた。
 書き込みの中にある「freenet」というのは、1999年にアイルランド人のIan Clarke氏が開発をスタートさせたオープンソースの匿名ネットワークシステムである。政府や企業の監視に対抗し、自由な表現や発言の場を確保する目的で、今も開発が進められている。
 米国政府などからは「テロリストに悪用される」と批判されているが、インターネットの自由を大切にしようと考えているユーザーからは強く支持されている。さらにコンテンツの流通に関しては、過剰な著作権主張に対する批判も少なくない。Winnyを考え出した47氏にも、そうした自由でアナーキーな思想が底流にあったのかもしれない。
 47氏は今後、表舞台には登場してこない可能性が高い。次はどのような人物が「ポストWinny」として名乗りを上げてくるのだろうか。


8.生徒の反応

 有罪が3割から4割、無罪が6割から7割とかなり拮抗していました。


 無罪とするおもな根拠はつぎのようなもの。
 ウィニーはウィルスと異なり、悪用を目的に作られたものではなく、使い方によってはきわめて有意義な使い方もできる将来性のあるコンピューターソフトである。実際に専門家たちはウィニーの技術を高く評価しており、今後、インターネット電話や動画配信などへの応用も期待されている。したがって、ウィニー自体は有意義な使い方もできるし悪用もできる中立的な存在であり、ウィニーをつかった違法コピーは、あくまで悪用するユーザーのモラルの問題である。一方、ウィニーを開発・公開した金子被告の行為は、様々な使い方のできる便利なソフトを多くの人に無料で提供したものであり、むしろ善意によるボランティア行為といえる。さらに金子被告はウィニーを悪用しないようネットで呼びかけてもいる。もしもこの2件の著作権侵害事件で、ウィニー開発者までがほう助にあたるとするなら、それは包丁やバットをつかった殺人事件がおきた際にその製造業者までが殺人ほう助で罪に問われるのと同じである。それは「ほう助」の拡大解釈であり、合理性がない。


 一方、有罪とするおもな根拠はつぎのようなもの。
 ウィニーユーザーのほとんどは違法コピーの道具として利用しており、この点でウィニーと包丁とを同列に扱うことはできない。つまり、包丁の場合、ほとんどの人は殺人目的につかうことはないが、逆にウィニーは利用者の大半が著作権侵害を目的につかっており、ウィニー開発者と違法コピーをするユーザーとの関連性ははるかに深い。現在の状況では、ウィニーをつかう目的は違法コピーのダウンロード以外に考えられないという事態になっている。金子被告は、ウィニー開発時にすでにこうした事態をまねくことをある程度予測していた。それにもかかわらず、なんら違法コピー対策をとらないままウィニーをネット上に公開したことは、人通りの多い場所に拳銃を並べ、「ご自由にどうぞ、ただし悪用しちゃダメだよ(笑)」とふざけ半分の注意書きをそえて不特定多数にばらまく行為に例えられる。したがって、金子被告の行為は著作権侵害をしたふたりの主犯と密接に結びついており、著作権法違反のほう助が適用される。


ひとまずまとまったのでWebサイトのほうにも掲載しました。内容は上に書いたのと同じものです。
 → ウィニー裁判