福島第一原発情報の整理

(3/18に書いたものに随時追加)


地震から一週間経過したが、福島第一原発の冷却システムは回復しないまま状況は悪化している。今日は自衛隊による海水の空中投下や放水が行われて映像としては派手だったが、これは原子炉の冷却システムを作動させるための準備作業にすぎないので本質的な改善にはなっていない。これ以上の事態悪化を食い止められるのか、また、最悪の事態を回避できるかは、ここ数日が正念場だと見られている。


毎日新聞 東日本大震災図説集 被災地の状況(2011年3月23日付夕刊)
http://mainichi.jp/select/jiken/graph/sinsai_zusetsu/1.html

最悪回避へ最終局面 福島第一原発事故

朝日新聞 2011年3月18日

 福島第一原発の状況は、事態悪化をここで食い止めるか、放射性物質の大量放出に向かうかという剣が峰に立っている。自衛隊、警視庁なども活動に加わり、総動員態勢の様相もでてきた。
 使用済み核燃料は、炉心にある燃料ほどではないが崩壊熱をもつ。3、4号機の貯蔵(冷却)プールでは水の循環装置が故障して水温が上がり、水が減っているようだ。
 ここに放水や電源の復活でたっぷりの水が入ると、燃料は冷やされ事態は落ち着く。
 使用済み燃料は高レベル放射性廃棄物で、極めて強い放射線を出す。一部でも露出していれば、周囲は作業もできない状態になる。
 注水ができなければ水が減り、自身が出す崩壊熱で燃料が溶けるだろう。
 この後の予測は難しい。あえて最悪ケースをたどれば、溶けた燃料がプールの下にたまる。燃料中にはウランやプルトニウムがあり、核分裂が連続して起きる「臨界」が心配だ。ただ一緒に溶ける制御棒の成分が臨界を抑制するかもしれない。
 放水に目を奪われているが、1〜3号機の炉心(圧力容器)も非常事態だ。
 内部の状況は不確かだが、長時間、核燃料が露出し、ある程度の燃料溶融(炉心溶融)が起きているとみられる。注水は待ったなしだ。
 消防ポンプなどで注水を試みてきたが、圧力容器の圧力は高く、水は跳ね返されて思うように入らない。
 ここで強い電源が復活すれば、原発の大事故を防ぐ守護神とされる緊急炉心冷却システム(ECCS)がやっと働く。高圧の注水で炉が落ち着く「再冠水」状態にしてくれるだろう。
 ただ、ECCSは大丈夫なのか。今回の地震津波は、頑丈なはずの原発の設備をことごとく壊している。
 炉への注水がうまくいかなかったら――。核燃料は次第に溶ける。溶ける温度はセ氏2800度。どろどろになった状態で圧力容器の下部に落ちていく。周囲には鋼鉄の設備もあるが、1500度ほどでたいていの設備は溶ける。
 これは仮想の話ではなく、1979年の米スリーマイル島原発で実際に起きたことだ。燃料の70%が溶け、燃料の塊が下部に達したが、ここで止まった。まさに大惨事一歩手前だった。
 1〜3号機の炉心をスリーマイル島原発の状況に向かわせてはならない。
 最悪シナリオは、溶けた燃料が炉の下部を溶かし、貫通することだ。この段階で止まるかも知れないが、近くにある圧力抑制室まで達してそこの水と接触すれば「水蒸気爆発」が起きる。
 その衝撃と圧力に、圧力容器の外側の格納容器はおそらく耐えられない。大量の放射性物質が大気に出て行く。
 福島第一の最大の問題は、三つの原子炉と二つの使用済み燃料貯蔵プールという「五つの異常事態」が、状況が不明のまま、同時に進行していることだ。深刻だが、今の段階で悪化を止めれば大量放出は避けられる。
 地震から1週間がたち、政府も危機感を深め、さまざまな放水活動が展開されるようになった。これまでは事業者である東京電力にまかせる形が強かったが、やっと社会の力を集める形がとられつつある。この動きを強めたい。(編集委員・竹内敬二)

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103180131.html

冷却系の復活焦点

朝日新聞 2011年3月20日

 今回の地震による福島第一原発の被害では、原子炉が壊れて大量の放射性物質が漏れ出すというのが、最悪シナリオだ。そうならないために水でいかに核燃料を冷やすかがカギになる。水を循環させるポンプのほとんどは電気で動く。外部から大容量の電源確保が欠かせない。電源復旧は事態打開の第一歩だが、今後はシステムがどこまで正常に動くか確かめていかなければならない。

 核燃料は原子炉が停止していても、常に熱を出し続ける。このため、水を循環させて、海水と熱交換して冷やす作業をずっと続けている。そのための機器の動力源は、ほとんどすべてが電気だ。想定を超える今回の地震津波で、全電源喪失という原発の運転で絶対にあってはならない事態が起きた。

 現在、装置の故障で水の注入ができずに、燃料が熱を持ち、原子炉や使用済み燃料プールの水が蒸発してむき出しになっている状態とみられる。そうすれば、大量の放射性物質が外部に出る恐れがある。現在、特殊放水車などを使って水を注入する異例の方法を試みている。

 送電線とつなぎ、大容量の電気がつながれば、あらゆる方法で大量の水を原子炉や使用済み燃料プールに注入することが期待できる。まず、原子炉建屋の下にある圧力抑制室の水を原子炉に注入し、水で満たすことができる。

 さらに、通常の運転中に原子炉や使用済み燃料プールを冷却するシステムが稼働できる。そうして、原子炉内の水を100度以下にする「冷温停止」の状態に持っていくのが目標だ。

 ただ、問題もある。津波や相次ぐ爆発、火災などで、水を注入するための配管や弁、ポンプなどが破損している恐れがある。現在はその現状把握がほとんどできていないのが実情だ。このため、電源が復旧しても、水を原子炉や使用済み燃料プールに注入したり、循環させたりすることができない可能性がある。

 そうした場合に備えて、東電の対策本部では、壊れたポンプとすぐに取り換えられるように、仮設のポンプを大量に用意。故障した場合には、修理せずに取り換えて早急に復旧できるよう、準備しているという。

 車のように目で見ながら運転できない原発は、水や蒸気の温度、原子炉や配管の圧力、原子炉の水位などを測る計器類で確認しながら運転する。その測定もすべて電気に頼っている。しかし、停電中の福島第一原発では、予備のバッテリーが切れて計測不能だったり、計測が難しくなったりしている。このため、原子炉の状態がよくわかっていないのが実情だ。原子炉の燃料の破損の状況を確かめながら作業を進めていかなければならない。

 電源が復旧すれば、そうした計測が可能になり、原子炉の状態が把握できるようになる。そうすれば、原子炉や使用済み燃料の破損状態なども測定でき、放射線による被害などを想定できる。少ない電気を節約するために、現在は中央操作室も停電させており、夜間の作業を困難にしている。こうした計器類が作動し、照明などがつけば、さらに復旧作業が進む。

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103200068.html


今後の対応は、ひとまず放水によって核燃料を冷やして放出される放射線量を減らし、その後、原子炉の冷却機能を復活させるための作業に入ることになる。では、核燃料の温度が上昇している1号炉〜4号炉について、今後のシナリオはどのように予想されているのか、上の二つの記事を要約すると次のようになる。

  • 冷却システムが回復しないまま、原子炉内の核燃料や冷却プール内の使用済み核燃料の温度が上昇し続けた場合、核燃料や使用済み核燃料は約2800度で溶け始める。どろどろにとけた核燃料は原子炉の底にたまり、さらに原子炉の壁を溶かしていく。高温の核燃料が原子炉の外へ流出すると、気化した核物質を大気中へ放出することになる。また、核燃料が大規模な水蒸気爆発を起こすと、大量の核物質が周囲にまき散らされることになる。これが「メルトダウン」と呼ばれている現象で、福島の事故でもっとも心配されているのがこのシナリオ。
  • 高温で溶けた核燃料が再び臨界反応をおこした場合、核分裂によって大量の中性子線を発するとともに熱によって気化した放射性物質が大気中へ放出され、さらに被害を拡大する。(*核燃料のウランは核分裂を起こす際に二つから三つの中性子を放出します。この中性子が他のウラン原子にぶつかるとそのウラン原子も核分裂を起こします。そうして連続的に核分裂反応が進行する状態のことを「臨界」といいます。1999年の東海村でおきた、バケツで大きなタンクにざぶざぶウラン溶液をくみ上げていたらところ、「タンク内でピカッと青く光った」という事故はタンクの水圧でこの臨界反応がおきてしまったことによるものです。今回の福島の事故で、核燃料の再臨界があるかどうかは専門家でも判断が分かれているようですが、新聞報道を見る限り、メルトダウンよりは可能性が低いようです。)
  • 核燃料の溶融は原子炉内でとどまり原子炉自体の崩壊は免れる。しかし、冷却システムは復旧できず、高温になった核燃料や使用済み核燃料が長期にわたって強い放射線放射性物質を出し続ける。その汚染はアメリカのスリーマイル島原発事故と同様に十数年におよぶことになる。
  • 原子炉の冷却システムをすみやかに復旧させることに成功し、放射能汚染も最小限にとどめられる。


1979年のスリーマイル島原発事故では、冷却ポンプの故障によって原子炉が異常加熱した。原子炉の緊急停止後、運転員の操作ミスも重なって原子炉内から冷却水が流出してしまい、高温になった核燃料は溶けて原子炉の底にたまっていった。核燃料の約半分が溶融したところで冷却水が原子炉内に注入され、原子炉の崩壊はまぬがれた。ただし、高温になった核燃料から気化した放射性物質が大気中へ放出された。放射能汚染による住民や環境への影響はほとんどなかったが、周囲の放射線レベルが完全に通常に戻るまでには十数年がかかった。
→ Wikipedia「スリーマイル島原子力発電所事故」
1986年のチェルノブイリ原発事故では、通常運転をしていたところ、突然、原子炉が異常加熱し、緊急停止も間に合わず、高温の核燃料は臨界状態のまま大爆発を起こし、大量の放射性物質が周囲にまき散らされた。後に原発自体に設計ミスがあったことが判明し、緊急停止装置も正常に働いていなかったことがわかった。チェルノブイリ原発周辺は、事故から二十年以上経過した現在も放射能汚染がつづいており、半径数十キロにわたって立ち入り禁止区域になっている。
→ Wikipedia「チェルノブイリ原子力発電所事故」


福島の原発事故は、冷却機能が故障し、核燃料が異常加熱しているという点でスリーマイル島事故とよく似ている。ただし、スリーマイル島事故では、約一週間で事態は収束し、核燃料の溶融も原子炉内でとどまったが、福島では一号炉〜四号炉までの四つの原子炉で同じ事態が進行しており、スリーマイル島事故以上に厳しい状況である。さらに各原子炉に隣接している使用済み核燃料プールからも冷却水が失われ、高温になった使用済み核燃料から気化した放射性物質が大気中へ放出されている。チェルノブイリ事故のような運転状態のまま原子炉が爆発したケースとは状況も被害の大きさも異なるが、震災の翌日以来、一号機〜四号機の核燃料と使用済み核燃料は、スリーマイル島事故以上の放射性物質を大気中へ放出しつづけている。

毎日新聞3/26 福島第1原発:スリーマイルから祈り 事故から32年
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110327k0000m030050000c.html


震災後、福島第一原発では、強い放射線の中で連日つなわたりの復旧作業が続けられているが、一号機〜四号機の冷却機能はその後も回復していない。3/25の朝日の記事では、福島の状況はスリーマイル事故をこえてレベル6の規模に達していると指摘されている。



朝日新聞3/25 福島第一原発事故、スリーマイル超えレベル6相当に
http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY201103240465.html
朝日新聞3/25 天野IAEA事務局長の見解
http://www.asahi.com/national/update/0325/TKY201103250108.html



毎日新聞震災図説集 原子炉建屋の構造

朝日新聞18日 各原子炉の状況


朝日新聞21日 各原子炉の状況


朝日新聞24日夕刊 各原子炉の状況


3/24には、福島原発内で復旧作業にあたっていた三人の作業員が被曝し、病院へ搬送された。三人の被曝について、防護服の装備が不十分だったことと現場での放射線管理が不十分だったことが指摘されている。また、被曝した三人はいずれも下請け会社の作業員で、東京電力の社員ではない。高い放射線レベルの最前線では、大勢の下請け会社の作業員が40分交替の人海戦術で復旧作業にあたっている。

毎日新聞3/24 福島第1原発:被ばく2作業員搬送 足に放射性物質
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110325k0000m040077000c.html
毎日新聞3/24 福島第1原発:長靴はかず足ぬれ 安全管理に問題か
http://mainichi.jp/select/biz/news/20110325k0000m040101000c.html
毎日新聞3/24 福島第1原発:メーカーも技術者ら投入 事故収束に全力
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110325k0000m020143000c.html
朝日新聞3/26 過酷労働もう限界、両親は不明…原発の東電社員がメール
http://www.asahi.com/national/update/0326/TKY201103260360.html


冷却機能の復旧作業は、一進一退の状況が続いており、3/25の時点でも一号機〜四号機の冷却機能は依然として回復していない。次の記事では、復旧作業の長期化を指摘している。

原発安定「最低1カ月」

朝日新聞 2011年3月25日8時55分

冷温停止へ注水継続

 電源復旧作業を続けている福島第一原発では24日、午前中に1号機の中央制御室で照明がつき、5号機ではポンプの交換が終わって夕方には原子炉の冷却が始まった。徐々に管理体制を取り戻しつつあるが、それでも1〜3号機の原子炉は、冷却水の温度が100度を下回る冷温停止になるまで、早くても1カ月はかかりそうだ。複数の東電関係者らが朝日新聞の取材にそんな見方を示した。

 冷温停止には、炉内に水を循環させるポンプと、その熱を海水で冷やすポンプの2系統が動く必要がある。だが、1、3号機のポンプは壊れている可能性が高い。このため冷却水を循環させられず、仮設ポンプでの注水が数カ月続く可能性がある。この間、放射性物質は出続けることになる。

 関係者によると、ポンプは大型なほど精密な制御が求められる上、ポンプそのものも同時に冷やせなければならない。炉心への配管には多くの弁もある。センサーの作動で炉内の様子がわかっても、「実際に冷却系を正常に動かすのは、注水より格段に難しい」と指摘する。

 そもそも、ポンプが正常かどうかを確かめる作業自体が難航している。23日には2号機で高い放射線があり、作業が中断。24日は3号機で作業員2人が被曝(ひばく)が原因で病院に運ばれた。

 さらに、1、3号機は水素爆発で建屋が壊れており、ポンプが大きく壊れていれば交換するしかない。代替ポンプがあっても、高い放射線量の下での設置作業は難航が予想される。

 米ペンシルベニア州で1979年に発生したスリーマイル島原発事故では、事故発生から冷温停止まで約3週間かかった。福島の1〜4号機は津波や水素爆発のダメージが大きく、京都大原子炉実験所の小出裕章助教原子核工学)は「状況ははるかに厳しい。1カ月で冷温停止すればいい方だ」と指摘する。

 原子炉の核燃料は、運転時の余熱ではなく、核分裂で不安定になった元素がさらに別の元素に変わる際に出る崩壊熱を出し続けている。小出助教の計算では、核燃料が持っている熱は運転時に比べればごくわずかだが、それでも2、3号機にある燃料はまだ約6千キロワットのエネルギーを持っているとみられる。そのエネルギーは半年後でも半分、1年たっても3分の1の力を持ち続けているという。

 小出助教は「冷温停止には両系統のポンプを動かして炉心の熱を海に捨てるしかないが、放射線量が多い環境下での作業は時間がかかるだろう」と話した。

■1号機制御 一進一退

 東電や経済産業省原子力安全・保安院によれば、1号機の原子炉が一時、不安定な状況に陥った。24日も炉の温度や圧力をコントロールする作業が続いた。うまくいかなければ、放射能をおびた蒸気を外に放出し、原子炉を守る手段がとられることになる。

 1号機では24日午前、使用済み核燃料プールからの湯気らしき白煙が確認された。使用済み燃料が持つ崩壊熱を冷やすことが急務だが、原子炉にある核燃料は、さらに問題だ。

 原子炉に海水を注入中だが、22日ごろから一時的に設計上の最高温度より100度高い約400度まで上昇。設計値を超えたらすぐ壊れるわけではないが、念のため23日未明に注水量を増やした。

 24日午後に約218度まで温度は下がったが、逆に格納容器の圧力は高くなった。注水した海水が蒸気になって圧力容器内の圧力が上昇し、外側の格納容器に蒸気が出たとみられる。核燃料を冷やすことを優先するか、圧力を下げるのを重視するか、バランスが難しい作業が続いている。

 最悪の場合、格納容器が蒸気の圧力で壊れ、放射性物質が大量に放出される。そうなるのを防ぐため、東電は蒸気を外部に放出して圧力を下げる「ベント(排気)」という手段も検討している。

 蒸気には放射性物質が含まれるため、なるべくなら避けたい手段だ。しかし、これまでにも原子炉の格納容器の圧力が上がり、排気が行われた。保安院によれば1号機では12日に1回、2号機で13日に1回、3号機で12、13、14日に計3回行われている。

 ただし、これまで行われた排気は、環境への影響が比較的少ないとされる方法だ。蒸気を圧力容器につながる圧力抑制室に送り、中にある水をくぐらせてから放出する。

 水をくぐらせると、蒸気中の放射性ヨウ素の量は約100分の1に減ると考えられるという。キセノン、クリプトンといった放射性の希ガスは減らないが、希ガスは比較的人体への影響が少ない。

 しかし、これでもうまく圧力をさげられない場合、水をくぐらせずに放出する排気(ドライベント)に移る。これまで以上に外に放射性物質が出ることになる。

 2号機では15日にこの操作をしたが、実際に蒸気が放出されたかは不明という。2号機では15日に格納容器の一部が壊れたおそれがあり、そこから水をくぐらないまま蒸気が排気された可能性もある。

 こうした排気は付近の放射線量が上がり、作業員が屋内退避するなど原発の復旧作業に影響する可能性がある。また、高さ120メートルの排気筒から蒸気が放出されるため、風向きにも注意が必要になる。東電は、可能な限り事前に公表するとしている。

 保安院の西山英彦審議官は24日、1号機での直接放出についてこう話した。「圧力、温度、水の注入具合、原子炉の状況などを見ながら総合的に判断する。最終的には統合本部長、総理が許可する」
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103240503.html


メルトダウンの可能性について、ネットでは様々な憶測が飛び交っており、このまま核燃料の温度が下がらなければ、再臨界もふくめてあり得るという人もいれば、原子炉格納容器が崩壊することはまず考えられないという人もいる。原子炉内部の状態や核燃料の温度がはっきりわからない状態では、どの程度の確率でメルトダウン再臨界が起きるのか専門家でも予測できないようだ。ましてや私のような専門知識のない者が憶測でいい加減なことを書くのは控えよう。


東芝で原子炉を設計していた藤林徹さんは福島事故の状況を次のように解説しています。
https://sites.google.com/site/reportfujibayashi/
現在の状況をわかりやすく解説し、怪情報で混乱しないように呼びかけているので、全文を引用しておきます。

福島原発に関する見解と東京の安全性について 2011/3/17 (3/19、表題含め一部更新しました)


福島原発について多くの情報が飛び交っていますが、東京にいらっしゃる皆様からご質問を戴いていますので、次のようにお返事いたします。

福島原発地震津波の被害による現象はニュースでご承知のとおりです。設計上の耐震強度の2倍の地震と設計で予想した高さ以上の津波に襲われて、冷却に使用するポンプやディーゼルエンジンが流されたか損傷してしまったことは、ビルや町が津波に襲われている多くの映像をみるとよく理解できます。現場は時々刻々変化し、また内閣府保安院などからは、事態が日々悪化していると説明されています。今後どのように推移するか予断は許されない状態です。すなわち現状から悪化する方向か現状以上に悪化しない方向かで、危険性は大きく変わります。

一方で、東京在住の方々から、このまま東京に居続けてよいのか、雨が降ってきたら被曝するのかといった質問が寄せられています。これらの方々は、デマメールやインターネットからの多くの情報に混乱しているようです。今一番必要なのは、正しい危機感をもつことです。情報の発信元とその根拠を探って、正しい認識をもってください。

まず、権威のある情報であっても、二つの方向があることを承知してください。一つは、現在と将来を悪い方向に評価した情報です。これは、何が起こっても対処できるように、安全サイドに評価した結果ですから、けっして悪いものではありませんが、安全サイドの度が過ぎる情報をそのまま信じて恐慌状態になります。もう一つは、現在と将来を良い方向に評価した情報です。これは、人々が心の安堵を保てるように、現状以上に悪くならないことを前提とした評価結果ですから、それはそれなりに正しい情報ですが、それだけを信じると楽観的な態度に結びつく危険があります。

この二つの方向に基づく情報を、自分で正しく判断して、正しい危機感を持つことが重要です。正しい判断をするには、正しい技術的な根拠を理解しておくことが重要です。何も起こらなければ、そのような難しい理論や因果関係を理解する必要はありませんが、福島原発の今の状況は、そのような理解が必要は段階です。わかり難くても、根拠を示すような新聞記事は是非注意して読んでください。

さて、前書きが長くなりましたが、このようなことをベースに私見を次のとおり述べます。

もしも、福島原発が冷却されて現状が維持または改善される方向であれば、放出される放射能は大きくは増えないでしょうから危険度は低いです。

しかしながら、冷却ができない方向であれば、危険度は大きく増えます。すなわち、原子炉にある燃料の、社会で言われている溶融(実際は燃料を包む被覆管の高温腐食)が進んで、燃料は崩れて炉心は崩壊するでしょう。そうなると再臨界になって核分裂反応が始まるのではないかと心配する人もいます。しかしながら、それには核反応を起こす中性子を生み出す水が必要ですし、また中性子を吸収するホウ素が使われているようなので、再臨界の心配はないと思います。このときでも待避した住民は十分に管理された状態にありますから、被曝の危険性は軽微でしょうが、待避できない人、例えば現場で戦っている東電の職員や作業員の方々には重傷者や犠牲者も出てくるでしょう。

それでも東京都民は安泰です。放射能は大気の流れに沿って拡散して広がり、広がった分だけ薄まりますから、距離が離れれば離れるほど危険度は低下します。例えば発電所の発生点で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が東京方向の風に乗って流れたとすると、1キロ離れていれば1ミリシーベルト、10キロ離れれば0.01ミリシーベルト(10マイクロシーベルト)と低下します。東京は福島から100キロ以上離れていますから、さらに0.0001ミリシーベルト(0.1マイクロシーベルト)以下となり、東京都民のリスクは、10キロ圏内にいる福島県民のそれよりもずっと低いものです。(この距離による低減効果は概念を示す安全サイドのもので、実際は、風向きや風速などの条件でこれよりかなり低くなります。)

17日の朝日の朝刊に、日本の平均年間被曝量は、自然からと医療などから3.75ミリシーベルトとありました。すなわち、一日あたり10マイクロシーベルト、1時間あたり0.5マイクロシーベルト以下になります。

すなわち、発電所で1時間あたり100ミリシーベルトであった放射性物質が毎日24時間、東京方向に向かって365日流れ続けたとしても、東京で受ける被曝量は、これまでの日本の平均被曝量の5分の1にしか相当しません。

したがって、東京から脱出するとか雨が降ったら外出しないなどの話は、まったくナンセンスです。でも、心配だったら、外出から戻ったら、花粉症と同じように、コートや帽子を払うとか、寝る前にシャワーで頭を洗う程度のことは実行すれば、さらに低い値になるのでよいでしょう。

むしろ、人的な影響、例えば危険をあおる報道やデマを伝えるネットやメールによる不安感の方が心配です。これらは人から人へ伝染します。放射能の汚染より、こちらの伝染を心配してください。

福島原発の状況が現状からどちらの方向に向かうかは、今後1週間から1ヶ月しないとわかりません。それは物理的な現象の進展と、行政、東電、国民の努力によって決まります。
東京電力が自らの災害ではなく国民の災害であることを認識して、自衛隊消防庁など行動できる行政部隊、他電力のエキスパート、国際的な知能などの協力を仰ぐことができれば、国民が納得できる結果が得られます。

それで、将来の道筋ですが、それは東電が世論を見ながら決めることです。修復して再起させるのか、解体して更地にするか、あるいはチェルノブイリのように石棺に閉じ込めるのか、半年か1年後に決まるでしょう。このまま冷却されれば技術的には修復して再起させることができます。でも原子力事業は世論とともに進みますから、おそらく、更地にする道を選ぶと思います。

更地にするには、まず喪失した原子炉の屋根を回復して、原子炉から燃料を取り出して安全な場所に移動させ、容器や部品を丁寧に除染しながら解体します。それには、5年から10年かかるでしょうから、3ないし4基の原子炉では数十年かかるでしょう。この間にも放射能の問題が付きまといますから、地元の方は長期間の避難か移住が必要になります。その間の生活保障など莫大なお金がかかります。そのようなことから、不名誉な石棺を選ぶことになるかもしれません。

以上がとりあえずの説明です。東京の人は放射の問題は心配無用です。将来の姿は世論が決めます。これが回答です。

地震津波に遭遇した発電所のうち、使える発電所が復旧して計画停電が軽減されるまで、半年から1年はかかるでしょう。それまで、節電に協力しながら、今後の道を探ることも大切です。

どうか、厳しい現場で、命をかけて水を注入している技術者と労働者、それに関係機関の方々の無事を祈ってください。このため、自宅を離れて不便な避難生活をおくられている方々に思いを馳せて、また心にゆとりができましたら、30年から40年の長期にわたって私たちに電気を送り続け、いままさに息絶えんとするプラントたちに、お疲れ様でしたとつぶやいてください。

藤林徹(元東芝原子炉設計部長)


*藤林さんは、権威ある情報でも楽観的な予測と悲観的な予測のふたつの方向性があると指摘していますが、彼自身の見解はメルトダウンの進行を心配しつつも「再臨界の心配はない」「避難していれば被曝は軽微」「東京都民は安泰」というものでなので、「楽観的な方向性」と言えそうです。


では、最悪の事態になった場合、どの程度の被害をもたらすと予測されているのか。アメリカは福島第一原発から半径80km圏内におよぶ可能性があると予測しており、80km圏内への米軍の立ち入りを禁止する指示を出している。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103170049.html

もっとひどい状況を想定しているのがフランスの政府機関とメディアで、チェルノブイリのような汚染をもたらす可能性がある、東京にも被害がおよぶ危険性がある、今すぐ日本から脱出するべきだといった論調。サルコジ大統領がスポークスマンを通して「福島はチェルノブイリよりひどい」とコメントしたせいか、政府もメディアも混乱しているように見える。
http://www.lemonde.fr/japon/article/2011/03/16/petit-lexique-du-nucleaire_1493668_1492975.html
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011031600736
http://news24.jp/articles/2011/03/16/10178484.html

一方、イギリス政府は最悪の事態になった場合でも、チェルノブイリのような被害にはならないと見ており、日本政府による半径30kmの避難エリアを妥当な判断としている。その理由として、チェルノブイリの場合は完全にメルトダウンになった後も数週間放置され、被害を拡大したが、福島の場合は適切に対応しており、チェルノブイリとは状況が異なると指摘している。ただ、チェルノブイリの場合、放射性物質の飛散によって原発から北東へ100km以上の範囲へ深刻な汚染をもたらし、50km圏内の多くの地域が事故から20年以上たった現在も立ち入り禁止区域になっていることを考えると、「風向きは関係ない」「30km圏は妥当」というイギリス政府の見解は少々楽観的に見える。
http://dl.dropbox.com/u/463813/UKpressconfonJapanesenuke.pdf



*図はNHKクローズアップ現代チェルノブイリ事故から20年」2006年放送 より


原発から30km〜80km圏の人々も逃げるべきなのか。これについては専門家でもはっきりとした予測ができない以上、より遠くへ待避するかどうかは各自の判断でするしかない。ただ、原発からある程度の距離がある場合、直接放射線を浴びることによる外部被曝よりも、放射性物質放射線を出す物質)を体内に取り込んでしまうことによる内部被曝(体内被曝)のほうが長期的な健康被害をもたらす。内部被曝放射性物質を吸い込んでしまったり、皮膚から吸収したり、食料にふくまれた放射性物質を摂取したりすることで、体のなから放射線を浴びるというもの。こちらの内部被曝のほうが長期的には深刻な問題なので、各地の放射線量だけでなく放射性物質の飛散状況も調査・発表してほしいところだ。

朝日新聞 放射線対策の基礎知識
http://doraku.asahi.com/special/shinsai/110315.html
毎日新聞 放射性物質Q&A
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110321k0000m040070000c.html


*その後、放射性物質の飛散状況がわかってくるにつれて、野菜・牛乳・海水・水道水から基準値を超える放射性物質が検出されはじめました。「現時点では、ただちに健康に被害をもたらすものではない」と政府はパニックを起こさないよう呼びかけていますが、福島原発の状況が改善されないまま放射性物質を出し続けている以上、今後、放射能汚染が長期化・深刻化していくことは誰が見ても明らかです。

毎日新聞3/21 放射性物質による野菜の出荷停止
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110322k0000m040117000c.html
朝日新聞3/21 水道水から基準値3倍超す放射性ヨウ素 福島・飯舘村
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103200351.html?ref=recc
毎日新聞3/22 福島原発近くの海で放射性ヨウ素放射性セシウム
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110322k0000m040158000c.html
毎日新聞3/23 21品目で基準値超える放射性ヨウ素検出
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110323k0000m040176000c.html
毎日新聞3/23 都内浄水場から放射性物質
http://mainichi.jp/select/today/news/20110324k0000m040069000c.html


一方、放射性物質の飛散予測のほうは依然として十分な情報がないままです。日本にも「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測)という原発から放出された放射性物質の広がり方を地形や気象データを踏まえて予測するシミュレーターがありますが、23日のSPEEDIによる分析結果の政府発表は、シミュレーションにも予測にもなっておらず、たんに「原発から放射能が出てます」というだけのものにとどまっています。原子力安全委員会としては、予測が外れたら責任をとらされると思っているのか、おおざっぱに予測してパニックが起きたらまずいと思っているのか、歯切れの悪い内容です。放射性物質の飛散予測は、福島原発の復旧作業とともにいまもっとも重要な情報のはずですが、対応も内容も「スピーディー」にはなっていません。

朝日新聞3/23 30キロ圏外の一部、内部被曝の可能性 極端な例で試算
http://www.asahi.com/national/update/0323/TKY201103230465.html
読売新聞3/24 放射性物質 安全委、拡散試算を公表 計器故障でデータなく 避難の役に立たず
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=38496
朝日新聞3/25 原子力安全委員会は国民の前に立て
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103250143.html


*図は朝日新聞3/23の記事より


原発の著書で有名な広瀬隆は、テレ朝のCS番組で語気を荒げて政府の対応やマスメディアの報道を批判している。彼の怒りをあらわにした感情的な姿勢には抵抗を感じるが、原子炉の冷却システムを作動させるための電源回復こそが最重要という指摘と、放射性物質を取り込むことによる体内被曝のほうが深刻な健康被害をもたらすので単純に各地の放射線量だけを公表しても意味がないという指摘については、問題の本質を突いているように見える。
また、原子力安全委員会の学者や保安院の官僚は、原子炉の構造については素人同然だから、原子炉を設計したエンジニアを中心としたチームを作って、今後の事故対応にあたるべきだというのも的を射た指摘に見える。テレビニュースでも、原子力の研究者に理論的な話を聞くのではなく、実際に原子炉を設計した技術者に出演してもらって、具体的に事故の状況や今後の対応について解説をしてもらいたいところだ。

http://www.youtube.com/watch?v=veFYCa9nbMY&feature=relmfu


また、内田樹は、リスクを過小評価するよりは過大評価する方が生き延びる確率は高いという立場から、避難できる人は避難した方がいいと朝日新聞の取材で話している。
http://www.asahi.com/national/update/0317/OSK201103160089.html


宮台真司内田樹と同じ立場のようで、18日のTBSラジオで、日本政府が被害予測を小さく見積もって人々を安心させようとするやり方は愚民政策であり、複数の見解を人々に提示して判断材料を増やすべきだとして、政府の対応を批判していた。


ただその一方で、「避難できる人から避難する」というやり方では、当然、「避難できない人」が原発近くに取り残されることになる。「避難できない人」というのは、寝たきりの高齢者や重病の入院患者といった社会的弱者のことであり、現在すでに彼らは原発から30km圏内に取り残され、十分な物資も援助も得られないまま孤立しつつある。補給物資の輸送を行っている人々も30km圏内には入りたがらず、施設や病院の職員が物資を運搬している状況だという。待避圏内を広げるならば、「避難できる人から避難する」のではなく、まずこうした人々から優先的により遠くへ避難できるよう支援体制を整える必要がある。その支援体制が整わないまま被害を大きく見積もっても、取り残された人たちをいっそう孤立させるだけなので、政府の対応を一概に批判することはできないように思う。

*19日、30km圏内にある高齢者施設や病院から、入所者・患者の待避がはじまりました。ただ、長距離の移動に耐えられなかったり、自衛隊のトラックで寝たきりの高齢者が搬送されたりしたことで、高齢者が到着後まもなく亡くなるということもおきています。

毎日新聞3/22 介護老人施設、集団避難中2人死亡 福島から千葉、長距離移動にリスク
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110322ddm041040068000c.html
毎日新聞3/22 屋内退避患者ら、圏外搬送終了…今日中にも
http://mainichi.jp/select/science/news/20110322k0000e040060000c.html
毎日新聞3/22 「避難指示の方が…」 20〜30キロ圏内
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110323k0000m040030000c.html
毎日新聞3/23 岐阜の援助隊、屋内退避圏の搬送断る
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110323dde041040040000c.html


*あと念のため。震災後、関東地方で「計画停電」が続いているのは、東北地方に送電するためではありません。ましてや「被災地のため」に節電しているわけでもありません。福島第一原発地震津波で破壊されたのをはじめとして、関東地方に電力を供給している多くの発電所が故障・停止して、東京電力全体の発電量が不足しているからです。むしろ、東北電力からも電気を分けてもらっている状況で、「被災地で電気が不足しているのに首都圏に電気を回すのはどういうことだ」という批判も出ています。

勝間和代毎日新聞のコラムで、被災地支援としてまずやるべきこととして「節電」をあげていますが、完全に論点がずれているように見えます。東京の人間が節電をするのは、電力が不足している自分たちのためです。被災地支援は、まず募金、それから健康で技能があって時間の都合のつく人はボランティアへの参加です。

勝間和代のクロストーク「被災地支援への考え、思いを」3/16
http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/crosstalk/2011/03/post-65.html


福島原発東京電力のもので、首都圏をはじめとした関東地方に電力を供給していた発電所です。地元の福島に電力を供給していたわけではありません。なぜ福島に東京電力原発があるのかご存じない方はこちらをご覧ください。

原子力発電は必要か
http://d.hatena.ne.jp/box96/20110313


東京電力による節電のお願いと計画停電の告知
http://www.tepco.co.jp.cache.yimg.jp/index-j.html
毎日新聞 計画停電Q&A
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/news/20110322k0000m020059000c.html
福島原発事故原発の是非についての私の考え
http://d.hatena.ne.jp/box96/20110320