歳時記


災害で社会は騒然としていても春は来る。
温んできた夜風にあたりながら住宅街の路地を歩く。庭木の沈丁花から強い香りが漂ってくる。青臭いような甘いようなあの独特の強い香りが漂ってくると春だなと思う。同時になぜか条件反射的にそわそわした気分になる。家にこもってブログなんか書いてないで出かけよう。

こぶしは花芽が大きくふくらんでそのいくつかは咲き始めている。こぶしの白い花を見るとやはり春だなと思う。桜よりも、まだ肌寒いうちに咲きはじめるこぶしの花に春を感じる。



→ Wikipedia「ジンチョウゲ」
私にとって沈丁花は花そのものよりもあの強い香りである。花粉症でマスクをしているとなかなか気づかないが、雨の日にマスクなしで住宅街を歩くと庭先からあの独特の香りが漂ってくる。東京では三月半ばから咲きはじめ、花は四月半ばまで続く。秋に咲く金木犀の香りは芳香剤の印象があまりに強すぎて、私は季節感よりも化学物質を連想してしまうのだが、沈丁花は春の香りだと思う。写真は近所の玄関先で咲いていた沈丁花



→ Wikipedhia「コブシ」
肉厚で大きな花をつける木蓮よりも素朴ではかなげなこぶしの花が好きだ。毎年うちの近所では木蓮よりも少しはやく咲く。いまはまだ一分咲きというところ。つぼみのうちは赤いが花が開くころにはまっしろになる。小鳥たちはこぶしの花蜜が好物らしくさかんについばんでいた。デイビッド・アッテンボローの自然番組によると、奈良の正倉院から出てきたこぶしの種を植えてみたところ、種は千年の眠りからさめて発芽し、十数年後には白い花を咲かせた。こぶしの花弁はふつう六枚だが、それは五枚の花弁だったという。

→ Amazon「アッテンボローの植物たちの挑戦 VOL.1「旅をする種子」」*絶版


追記
アッテンボローの植物たちの挑戦は、こちらの動画サイトでオリジナルの英語版を見ることができます。
http://documentaryheaven.com/the-private-life-of-plants-1/

十数年ぶりに見たところ、弥生遺跡の前に立ったアッテンボロー氏は、マグノリア(コブシ)の種子について次のように解説しています。

 アサダには2000年前の古代遺跡がある。この遺跡からは、いくつかの植物の種子が発見されている。イネをはじめとした種子は黒く炭化して死んでしまっているが、丈夫なコブシの種子はいまも生きており、科学者が植えてみたところ、2000年の時をこえて発芽した。ふつう、コブシの花は6枚の花弁を持つが、その古代のコブシは、花によって7枚の花弁や8枚の花弁を持っている。


「アサダ」というのは、山口県にある朝田墳墓群のことではないかと思います。「正倉院からコブシの種子が出てきた」というのは、どうやら私の記憶ちがいだったようです。ご容赦ください。