原子力推進委員会


その渦中にいる者には全体像が見えないというのはよくあることだが、福島原発をめぐる状況は極端である。政府と電力会社はうかつなことは言えないとひたすら慎重な姿勢をとっているため、記者会見の内容はただ事実の報告にとどまり、事故の分析や評価はおもに海の向こうからつたわってくる。国内の報道機関は次々におきる新たな状況を追いかけるだけで手一杯なのか、原発報道では政府と電力会社の発表をただ右から左へ流しているだけの記事がやたらと目立つ。

SPEEDIをつかった原子力安全委員会の分析発表は23日の深夜に行われたが、内容があまりにもお粗末だったせいか、その一度きりになってしまった。年間7億8000万円も予算をつぎ込んで運営されているシステムなのに、肝心なときに役立たずである。文科省のWebサイトにあるSPEEDIのリアルタイムデーターもずっと「調整中」のままで、なにもデーターが表示されない。半年くらいたって状況が落ちついてきたころに「今日のスギ花粉状況」のようなお気楽さで運営をはじめるつもりなんだろうか。名前は「スピーディ」なのに。

SPEEDI収集放射線リアルタイムデータ - 福島県 -
http://www.bousai.ne.jp/vis/jichitai/fukushima/index.html
読売新聞3/24 放射性物質 安全委、拡散試算を公表 計器故障でデータなく 避難の役に立たず
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=38496

ドイツ気象庁では、事故後まもなくから福島原発からの放射性物質の飛散状況をコンピューターでシミュレートし、継続的に発表している。現在、原子炉の計測器が機能停止状態なので、福島原発から放出される放射性物質の量はあくまで推測値にすぎず、ドイツ気象庁による予測もけっして確実なものではない。ただこの予測では、濃い部分が仙台もふくむ200km圏内まで広がっている。日本のSPEEDIでも同様のシミュレーションになったため、社会不安と混乱を避けようとして、あえてデーターを伏せているんじゃないかという気もする。

ドイツ気象庁
http://www.dwd.de/
福島第一原発からの放射性物質の飛散予測(GIFアニメーション)


毎日新聞を例にここ数日の原発報道を見てみる。22日からだけでも500本をこえる福島第一原発関連の記事がWebサイトに掲載されているが、そのほとんどは政府と電力会社の発表をただまとめただけのものである。爆発した、白い煙が上がった、黒い煙が上がった、また爆発した、放射線が検出された、自主退避勧告が出た、制御室の電気がついた、作業員が被曝した、放射線の数値が上がった、下がったといった状況だけを報じるベタ記事は、ほぼすべて政府と電力会社からのものだ。これが全体の約8割を占める。一方、地元の自治体の長がこう言ってる、30km圏内で農業をやっている人は避難所でこんなことを言ってるといった地元の声をつたえる記事が約1割。原発から30km圏内には記者も入れないので仕方ないといえば仕方ないのだが、現地から直接状況をつたえる報道はごくわずかしかない。事故の状況分析や事故評価にふれている記事はさらに少なく、ざっと読んだかぎりでは、下記の20本くらいしか見つからなかった。さらにそれらの大部分は、ベルリン、ウィーン、ニューヨーク、ワシントンといった海外からの報道であり、その中には外電や海外メディアからの二次情報までふくまれる。対岸の火事については気楽に話せるという点を割り引いても、国内から発信される事故分析はあまりにも少ない。

政府発表をただ流しているだけのマスメディアも情けないが、原子力安全委員会原子力安全保安院も、原子力の安全管理とは名ばかりで、実質的に原発推進委員会でしかなかったから、こういうときは逃げの一手というふうに見える。委員長の斑目は「黒衣に徹する」などと言っているが、菅や枝野を盾にしてかくれているようにしか見えない。彼らには原子力行政の責任者として状況分析と今後の対応を積極的に発信していく立場にあるはずなんだけど、いままで原発推進の旗振りしかしてこなかったから、現在の事態に対応できないのではないか。海外ディアの批判もおもに日本の原子力行政と東京電力についてであり、日本だけでは対応できない状況に陥ってるのに、なぜ外国の専門家の協力を受け入れようとしないのかと指摘している。

*29日、日本政府からフランスのアレバ社(国営の原子力企業)に援助要請があったとのことです。(by スポニチ


毎日新聞3/22 「現状、極めて深刻」天野事務局長が報告
http://mainichi.jp/select/world/news/20110322k0000e030046000c.html
毎日新聞3/22 米原子力規制委「安定化は目前」
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/22/20110322dde002040045000c.html
毎日新聞3/22 私はこう見る レイク・バレットさん 「スリーマイルより深刻」
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/22/20110322ddm007040124000c.html
毎日新聞3/23 私はこう見る ビャチェスラフ・グリシンさん
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/23/20110323ddm007040046000c.html
毎日新聞3/24 被ばく線量試算、初めて公表…原子力安全委
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110324k0000m040165000c.html
毎日新聞3/24 セシウム137、チェルノブイリの20〜50%に相当 オーストリア試算
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/24/20110324dde002040019000c.html
毎日新聞3/24 「日本人は政府を信用し過ぎ」伊記者
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110324k0000e040032000c.html
毎日新聞3/24 IAEA、表現を緩和 「深刻な懸念残る」
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110324dde003040031000c.html
毎日新聞3/25 作業員被ばく 安全管理、問題か
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110325ddm003040072000c.html
毎日新聞3/25 顔見えない原子力安全委 「危機感ない」批判も
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/25/20110325dde003040006000c.html
毎日新聞3/25 福島第1原発事故 安全委員長「最も懸念は1号機」
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/25/20110325ddm002040199000c.html
毎日新聞3/25 米「社会的責任を果たす医師の会」元会長、アイラ・ヘルファンド博士
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/25/20110325ddm007040039000c.html
毎日新聞3/26 制御、長期戦に 放射能汚水が作業阻む
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110327k0000m040112000c.html
毎日新聞3/26 冷却、一刻も早く 「容器破損なら汚染悪化」 専門家ら指摘
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/26/20110326ddm002040064000c.html
毎日新聞3/26 「トラブルは峠を越えた」技術協会最高顧問
http://mainichi.jp/select/science/news/20110326k0000e040035000c.html
毎日新聞3/27 福島第1原発事故 制御、長期戦に 作業阻む放射性物質
http://mainichi.jp/select/weathernews/archive/news/2011/03/27/20110327ddm003040116000c.html
毎日新聞3/27 スリーマイルから祈り 放射線量を監視している市民団体代表、エリック・エプスタインさん
http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2011/03/27/20110327ddm003040105000c.html
毎日新聞3/27 海水汚染、損傷燃料が発生源か−−専門家分析
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/03/27/20110327ddm003040112000c.html
毎日新聞3/28 給水の成果「不確か」−−IAEA事務局長
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110328ddm012040131000c.html
毎日新聞3/28 汚水流出は「格納容器から」 安全委見解
http://mainichi.jp/photo/news/20110328k0000e040081000c.html


電気事業連合会原子力推進体制」
http://www.fepc.or.jp/future/nuclear/suishintaisei/index.html