高校生はアルバイトをするべきか?


2学期中間試験の論述問題もここにまとめておく。中間試験では、日本の学校のあり方をめぐる問題をふたつ出題した。ちなみに現在勤務しているところは、公立高校ではいまや少数派になった原則アルバイト禁止の学校。その学校方針は、高校生にとってアルバイト経験が有意義か否かという教育的配慮から決まったものではなく、有名大学への進学率を上げたいという学校側の事情で設定されたものである。

・高校生はアルバイトをするべきか?


 高校生にとってアルバイトを経験することは、社会性を身につける良い機会になるのでしょうか。それとも学業や学校生活を圧迫するものなのでしょうか。次のAとBの文章を参考にして、高校生にとってアルバイト経験が有意義なものかどうか、あなたの考えを述べなさい。


A 高校生はアルバイトを経験したほうがいい。
 アルバイトをすることは、現実の社会にふれ、お金を稼ぐことの厳しさや社会のしくみを知るための絶好の機会である。家と高校と予備校とを往復しているだけではわからなかった色々なことが見えてくるはずである。それは単純に「仕事はおもしろい」という意味ではない。むしろ、仕事はつらいことのほうが多い。上司に怒鳴られることもあるだろうし、お客さんから苦情を言われることもあるだろう。重労働で体力的にきつこともあるだろう。しかし、そうした失敗や試行錯誤の体験をとおして、社会性や生きるための知恵を身につけられるはずである。万が一、給料をごまかされたり、理由もなく解雇されたりすれば、その時には、法律や制度がどのように自分を守ってくれるのかを実感するはずである。
 学校で学ぶことの目的は、生きるための知恵を身につけることであり、「もの知り博士」になることではない。知識を知恵にするためには、アルバイトをふくめて生活体験は多ければ多いほど望ましい。逆に生活体験にとぼしければ、学校で学ぶことの多くは教科書の中だけの机上の空論で終わってしまうだろう。
 たしかに日本の高校は受験を中心にまわっており、受験の内容は暗記中心なので、大学に合格することだけを考えたら、ひたすら知識を詰め込むことに専念したほうが効率がいい。しかし、大学受験は人生のゴールではない。高校三年間をひたすら受験勉強にだけ費やして有名大学に合格したとしても、長い目で見ればそれはけっしてプラスにはならないだろう。多感な高校生の時期にこそ、アルバイトを経験して現実のきびしさにふれるべきだし、たくさんの本も読むべきだし、たくさんの映画や演劇も観るべきである。その体験は、自分の視野を広げ、見識を高め、心を豊かにするための糧になるはずである。そうした体験と学業とは、二者択一ではなく、両立可能なものである。


B 高校生は学業に専念したほうがいい。
 日本の高校は、良くも悪くも受験を中心にまわっている。そういう中でアルバイトに時間をとられ、授業について行けなくなったり、受験勉強のさまたげになってしまったら、本末転倒である。学生の本分はあくまで学業のはずである。
 たしかに、アルバイトをすることで、学校で学んでいるだけではわからなかった実際の社会を知ることができる。お金を稼ぐことの厳しさも味わうだろうし、仕事を体験することで社会への視野も広がるだろう。そういったことは、家と高校と予備校の往復だけではわからないものである。
 しかし、長い人生の中で、ひとつのことに集中する時期というのも必要ではないだろうか。現代社会では、ひとりひとりに高度な技能や知識が求められている。それはたんに働く技能というだけでなく、社会の一員としても同様である。選挙で投票する際には、日本の社会が抱えている問題や現在に至った歴史を知っておくべきだし、ニュースを見る際にも、たんにひとつのできごとを追うだけでなく、その背景にある社会事情も理解する必要がある。そうした社会の一員としての基礎を身につけるのが高校生の時期である。
 現代の社会は、ますます複雑になっており、高校生が学ばねばならないこともたくさんある。そういう勉学にこそ、いまは時間をかけるべきである。人生は長く、働くことの厳しさや社会の一員であることの責任は、これから先、否が応でも体験することになる。高校生の時期は、そういう将来にそなえて基礎的なことを学ぶ準備期間であり、学業に専念することが望ましいのではないだろうか。アルバイトの体験は、その後にいくらでもできるはずである。