Bosnian Soldier 1994


今回はベネトンの広告についても授業で取りあげたので、記号選択問題のほうで一問出題した。こちらもAとBの会話文を読ませて、「で、あなたはどう考える?」という論述問題にしたいところだけど、試験時間の都合とすでにレポートの課題にしたこともあって、今回は記号選択問題として出題。

 次の資料はユーゴスラビアの和平を呼びかけるポスターです。ユーゴスラビア内戦の激しかった1994年に、イタリアのアパレルメーカのベネトン社によって制作されました。当時のユーゴスラビアでは、ナショナリズムをとなえる政治指導者によって民族間の憎しみがあおられ、やがて人々は民族の違いをめぐって隣人同士で対立し、その対立は武器を手にした市民同士による市街戦へとエスカレートしていきました。この内戦によって、ユーゴスラビアは解体され、各共和国は独立することになりましたが、内戦から10年以上たったいまも、隣人同士で殺し合った記憶は、バルカン半島の人々に暗い影を投げかけています。このポスターについての次のAとBの会話を読み、下の問いに答えなさい。


A「このポスターは戦死した若い兵士の遺品を大きく映し出すことで、もうこの世界にはいないひとりの若者のことを見る側に想像させているよね。血まみれになって死んでいったこの17歳の若者は、いったいどんな若者だったのか。どんな話し方をしたのか、どんな音楽が好きだったのか、スポーツや勉強は得意だったのか、恋人はいたのか。そういう私的なことを見る側へ考えさせることで、このポスターはユーゴスラビアの和平を訴えている。戦死者のことを「どこかの誰かの死」としか思っていなければ、和平の呼びかけに共感することなんてないからね。そういう意味で、手法としては、広島や長崎の原爆資料館に展示されている被爆者の遺品によく似ていると思う」

B「たしかにインパクトのあるポスターだね。原爆資料館に展示されている黒こげになった服や弁当箱が被爆者たちになにがおきたのかを雄弁に語っているように、このポスターも言葉でユーゴ紛争について解説されるよりもずっと印象に残る。ただ、この血で真っ赤に染まったTシャツの映像は、あまりにも強烈で暴力的だよ。いくら現実に起きていることとは言え、このポスターを公共の場へ展示して、不特定多数の人へ見せようっていうのは、無茶じゃないかな。想像してみなよ、電車の釣り広告にこのポスターが使われているところさ」

A「うーん、こういう大事なことを訴えているポスターこそ、公共の場に展示して、多くの人に見てもらうことに意義があると思うんだけど。ほら、ユニセフが紛争地のこどもの救済を呼びかける広告で、よくアフリカの飢えたこどもたちの映像を使っているよね。難民キャンプで撮影されたがりがりにやせた姿のこどもが出てくるコマーシャル。あのユニセフの広告だって、こんな悲惨な映像をテレビで流すなって怒る人もいる。たしかにあれを見て愉快に感じる人はいないだろうけど、だからといって、不愉快だから放送するなって言うのは、自分の都合のことしか考えていないように思うよ」

B「でも、このポスターの場合、ユニセフのような国連機関と違って、ベネトンっていうファッションブランドが制作したものだよね。もうけを目的に活動する私企業がこういうポスターをつくって、反戦人道支援を呼びかけるのは偽善的な感じがするよ。ベネトン側は商品の売り上げをのばすためにこういうポスターをつくっているわけではないって主張してるけど、本音はどうかわからないわけだし」

A「まあ、企業にも社会的な責任はあるわけだし、利益とは関係なく、企業がこういうポスターをつくることに意義はあると思うよ。それにベネトンの場合は、ポスターをつくってるだけじゃなくて、社会貢献のひとつとして国連の人権機関や難民救済機関にも協力しているわけだよね。たとえ、もしそれが売名目的の宣伝活動だったとしても、良いことをして企業評価を上げてるわけだから、批判されるようなことではないと思うよ」

B「そうかなあ。もし、セーターの売り上げを伸ばすためにこういう広告やCSRをやってるんだとしたら、他人の不幸を自分たちのもうけに利用することになるわけでしょ。その点で釈然としないよ」


 会話文のBの言っていることの主旨として、もっともあてはまるものを次の中から選びなさい。

ア.企業広告は商品のアピールのために作られるべきだと主張しており、商品の登場しないこのポスターについては批判的な立場をとっている。
イ.日本企業が欧米と比較してCSRに積極的ではないことを不満に思っており、その背景には、企業に甘いマスメディアの体質や消費者の声がなかなか社会に反映されない問題があると考えている。
ウ.和平を呼びかける一枚のポスターとしては高く評価しているが、そのショッキングな映像表現のため、公共の場への展示には批判的であり、企業広告のありかたとしても疑問を感じている。
エ.現実の社会問題を優れた映像で表現していると評価しており、こういうポスターこそ、積極的に公共の場へ展示して、より多くの人に見てもらいたいと考えている。
オ.実際に難民の支援活動をしている国連機関やNGOがこうしたポスターを制作することは支持するが、そうでない団体ならば偽善的だと考えており、ポスターを制作した企業が具体的にどのような形で国連に協力しているのかを気にしている。


ちなみにベネトンの広告について以前書いた拙文はこちらにまとめてあります。

http://www.ne.jp/asahi/box/kuro/report/benettonad.htm
http://www.ne.jp/asahi/box/kuro/report/benetton.htm