あとがき


本のあとがきで関係者への謝辞をえんえんと書いている作家をときどき見かけるけど、あれ嫌いです。


本のあとがきって舞台のカーテンコールみたいなもんなんだから、客に向かって挨拶しようよ。カーテンコールの最中に、いきなり観客に背を向けて関係者同士でいやいやどうもどうもとやり出したら失礼じゃない。どんなにいい芝居でも台無しだよ。テレビで楽屋ネタのバラエティ番組が氾濫してるせいか、だんだん舞台と楽屋の線引きがあいまいになってるけどさ、関係者への謝辞は舞台がはねてから楽屋でやるくらいのけじめはつけようよ。


若い作家が本を出せてうれしいっていうのはわかるし、とくにマンガやラノベの場合、力関係で版元のほうが優位に立ってることもわかるけど、関係者にお礼がしたいのなら、手土産持って直接挨拶に行こうよ。あとがきで「この場をお借りして」なんて手抜きしないでさ。


読者につたえたいことは作品の中で全部言い切ったというのなら、あえてあとがきなんか書かなくてもいいし、もし書くなら、読者にあてた言葉を書いてほしい。作家と編集者との関係や出版事情といった楽屋話は読み手にとってどうでもいいことで、ましてや関係者への謝辞をずらずらならべたてるのは書き手がどちらを向いているのかという基本姿勢の問題だ。「あとがきは読者に向けて書いてください」ってアドバイスしてくれる編集者すらいないんだろうか。広告主の顔色ばかりうかがってた雑誌が次々と廃刊になっていったように、版元と業界のほうばかり見てる書き手なんて、そのうち読者から見限られますぜ。作家やマスコミ関係者が特権階級だった社会なんてとっくに終わってるんだから。