新卒一括採用 メモ

 先日書いた新卒一括採用の是非について資料を集めている。
 こんな記事を見つけた。
 
なんだかんだ言っても新卒一括採用が最も合理的
海老原嗣生  日経ビジネス 2021.4.6
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00271/032600009/?n_cid=nbpnb_mled_mpu

 

 日本企業の場合、社内の配置転換で欠員を埋め、業務を回しているため、下っ端のヒラ社員から経験を積むごとに少しずつ繰り上がっていく。そのため、毎年、新卒一括採用で下っ端を補充していくのが合理的という趣旨の文章である。
 たとえば、自動車会社でエンジンの設計をしていた人物が退職・転職し、空きができたとする。エンジンの設計者のような専門性の高い人材を社外から補填する場合、異業種からの転職では業務内容に対応できないので、必然的にその人材は他の自動車会社でエンジンまわりの設計をしていたエンジニアに限定される。しかし、そうした狭い労働市場アメリカのように同業他社間の引き抜き合戦になってしまったら、企業にとって負担が大きく疲弊する。そこで、日本企業は社内の移動で欠員をまかなってきた。まず、空席になったエンジンの設計部門にそれができる人材が社内の配置転換によって補填され、さらにそれによって空いた席に別の人材が補填される。その玉突きの一番最後の空席をヒラ社員が昇進することで埋める。そのため、日本の大手企業では、下っ端のヒラ社員を補充するだけで業務が回るしくみになっているというわけである。なるほど、ここまではいたって明快だ。記事にはそのしくみの図もそえられている。

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 ところが、ヒラ社員の補充が新卒一括採用でなければならないという肝心なところの説明が一切されていない。記事のタイトルは「なんだかんだ言っても新卒一括採用が最も合理的」なのに。下っ端として業務を一から経験させるのなら、こちらは異業種からの転職でもいいはずだし、派遣社員やパート従業員を正規雇用に転換してもいいはずである。あるいは定職についていないオーバードクターや新卒時の就職活動がうまくいかずにアルバイト生活をしている既卒者に門戸を開いてもいいはずである。それがなぜ「新卒者」の「一括採用」でなければならないのかという説明がまったくないので、ちょっとこれは資料として使えません。四年時の就職活動がうまくいかなかった学生が来年度の新卒枠に残るためにわざと留年したり、研究に興味もないのに大学院へ「避難」したりする状況は、「きわめて非合理的」だと思うんだけど。

 それに文章では「エンジンの設計者」という技術職を例にあげて、その専門性の高さから労働市場の小さいことを理由に社内異動で補填した方が合理的だと説いているのに、図ではそれが「部長」「課長」という役職へとすり替わっている。部長や課長はあくまで管理職なんだから、こちらは異業種から転職であっても対応可能なはずである。自動車会社の「部長」や「課長」がすべてエンジンの設計ができる人材というわけではないだろう。記事を書いたのはリクルートの研究所で企業の組織分析をしてる人。ずいぶんいいかげんだなあ。

 

 ところで日経ビジネス、記事やコラムは良いのが多いんだけど、コメント欄がなぜかいつもネトウヨおじさんたちの集会場になっている。「記事はつまらなかったが、こちらのコメント欄には励まされた」なんて書き込みもあちらこちらで見かけたりして、退職してヒマを持てあました右翼おじさんたちがネットのコメント欄に居場所を見つけたという感じ。異文化探訪としてたまに覗くぶんには興味深いが、自らと政治的スタンスの異なる書き手に対して差別的な言葉で人格攻撃するコメントがずらずら並んでいる様子はやはり気分のいいものではない。