うめちゃん

 大学時代、知り合いに立川の高校を卒業した連中がいて、彼らは互いに高校の頃からのへんなあだ名で呼び合っていた。

「ねえ、なんで石井さんは"うめちゃん"って呼ばれているの?」
「青梅から来てるからだよ」
「ちょっと、それ、ひどくないか」
「どうして?かわいいのに」
「ちゃんづけすればかわいいってもんじゃないよ」
「でも、うめちゃんは高校の時からずっとうめちゃんだよ」
「誰か止めてやれよ」
「みんなうめちゃんって呼んでたよ」
「じゃあ、吉田くんはなんで"ごっちゃん"なの?」
「五日市から来てるからだよ」
「ひどい、ひどいよ、それ」
「えー、吉田くんはごっちゃん!って感じだよ」
「なにいってるのかぜんぜんわからないよ」
「ふつうつたわるよ」
「じゃあ、田中さんが"あきるちゃん"なのも?」
「うん、秋留から来てるからだよ」
「その論法だとあなたも"たっちゃん"か"かわちゃん"でないと不公平だよ」
「そこはほら、立川は地元で生徒も多いし、なんたって都会だし」
「ねえ、立川の住民は青梅線五日市線の住民を見下してる?」
「そんなことないよ、みんな仲良しだよ」
「本人たちは嫌がっていないの?」
「うん、みんな気に入ってるよ、たぶん」
「適当だなあ」
「そっちこそ、青梅線沿線の自治体は5期20年の領主様みたいな首長ばっかりとか、住民の8割は暴走族だとか、各家庭に釘バットが常備されているとか、青梅線の乗客はみんなワンカップ片手に車内でぐびぐびやってるとか日々偏見とデマをまき散らしているくせに」
「それはかぎりなく事実だよ」
「むう、我々青梅線沿線住民は思い上がった中央線沿線住民に鉄槌を下すべく宣戦を布告する!」
「あなた、そっち側につくのね」
「まあ、つきあいもあるし」


 そんな伊奈かっぺい津軽漫談みたいな会話をしたことを立川駅の妙に隔離されたところにある青梅線の1番2番ホームに立ちながら思い出した。村落共同体の崩壊した東京郊外の住宅街では、このようにして鉄道沿線ごとに地域性や地域間派閥が生まれるのだった。もしかして青梅線沿線から来ている子が地名で呼ばれるのは立川あたりの慣習なんでしょうか。