ウィニー裁判高裁判決

 ウィニー開発者が控訴審で無罪判決。

 → 朝日新聞 「ウィニー」開発者に逆転無罪 大阪高裁

ウィニー」開発者に逆転無罪 大阪高

朝日新聞 2009年10月8日
 インターネットを通じて映像や音楽を交換するソフト「ウィニー」を開発し、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東京大大学院助手、金子勇被告(39)の控訴審で、大阪高裁は8日、罰金150万円とした一審・京都地裁判決(06年12月)を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した。

 小倉正三裁判長は「著作権侵害が起こると認識していたことは認められるが、ソフトを提供する際、違法行為を勧めたわけではない」と指摘。技術を提供しただけでは、幇助罪は成立しないと判断した。

 懲役1年を求刑した検察側は「刑が軽すぎる」として、被告・弁護側は無罪を主張してそれぞれ控訴していた。

 金子元助手は02年5月、自ら開発したウィニーをインターネットで公開。03年9月、松山市の無職少年(当時19)ら2人=著作権法違反の罪で有罪確定=がウィニーでゲームソフトや映画をダウンロードし、不特定多数へ送信できるようにした行為を手助けしたとして起訴された。

 高裁判決はまず、ウィニーの技術自体への評価を検討。「様々な用途があり、技術は価値中立的だ」と述べ、検察側の「およそ著作物ファイルの送受信以外の用途はない」との主張を退けた。

 また判決は、金子元助手はウィニー著作権侵害に使われることを容認していたと認定したが、それだけでは著作権法違反の幇助罪は成立せず、「おもに違法行為に使うことをネット上で勧めた場合に成立する」との新たな基準を明示。そのうえで、元助手は違法ファイルを流通させた少年ら2人と面識はなく、違法ファイルのやりとりをしないようネット上で呼びかけていたことを挙げ、刑事責任は問えないと結論づけた。

 さらに判決は、ソフトが存在する限り、それを悪用する者が現れる可能性はあると指摘。悪用されることへの認識の有無だけで開発者を処罰すれば、無限に刑事責任を問われ続けることになるとして、「刑事責任を問うことには慎重でなければならない」と述べた。

 ウィニーで流通する違法ファイルの割合については、調査によって全体の9割から4割まで幅があり、9割前後とする検察側主張を否定した。

 一審判決は、「著作権侵害を認識していた」として罪の成立を認めたうえで、「その状態をことさら生じさせることは企図していない」として罰金刑を選択していた。


 かんたんにまとめると、検察側の言い分としては、

 ・ウィニーは実質的に著作権侵害以外に利用目的がない。

 ・被告はウィニーを開発している時点で、このソフトが著作権侵害の道具として利用されることを予測していた。 = 被告はネットの掲示板に「悪用しちゃだめだよ(笑)」と書き込んでいる。

       ↓

  なので、ウィニーをつくった行為自体が著作権侵害幇助にあたるというもの。ちょうどその改造モデルガンが殺人目的で使われるのを知りつつ、改造をほどこし貸し与える行為が殺人幇助にあたるのと同じだというわけである。



 一方、被告側の言い分としては、

 ・ウィニーをはじめとしたファイル交換ソフトは、サーバーを経由させず、自作のプログラムや音楽・映画等をファイル交換ソフトの入ったパソコン同士で直接やりとりできるようになるもので、使い方によっては様々な可能性をもつソフトである。

 ・被告は、ウィニー著作権侵害の道具として悪用しないよう、ネットで呼びかけている。

       ↓

  なので、ウィニー自体に違法性はなく、開発行為も違法性はないというもの。



 3年前に地裁判決が出た際に、授業で高校生たちにこの判決をどう評価するのか尋ねてみたところ、ほぼ全員が「無罪」。著作権侵害は、あくまでウィニーを使う側の問題であって、ソフト開発者にその責任を負わせるのは無理があるというものだった。たしかに一審の有罪判決はかなり強引な印象を受けた。微妙なところとしては、「悪用しちゃだめだよ(笑)」という開発者の発言の(笑)の部分で含みがある。検察側はそれを「悪用しないよう真正面から呼びかけている発言」ではなく、「どうせそういうふうに使うんだろという認識」として受けとめた。



 ウィニー経由での公文書の情報流失事件はきわめて多い。一審の有罪判決もそうした事態の深刻さを受けてのものだろう。役所では、職員に対して自宅のパソコンにもウィニーを入れないよう指導している。学校でもしばしばそうした注意を呼びかける文書が配られている。ただ、自宅のパソコンはあくまで私物であり、そこにどんなソフトを入れようがはっきり言って大きなお世話である。ネット経由で公文書の流失が多発する問題の本質は、仕事を家に持ち帰り、私物のパソコンをつかって仕事をしなければならないという労働環境自体にある。試験問題も授業の資料も自宅のパソコンで作成せざるを得ない立場にあるものとしては、「ウィニーを使うな」なんて注意文書を学校で配るくらいなら、俺に仕事専用のパソコンを貸与し、自宅で試験問題や資料を作成している時間ぶんの賃金も支払うべきである。それくらい厳格に業務と私生活とをわけない限り、こうした事件はくり返されるはずである。一審の有罪判決は、そうした労働環境事態の改善にはいっさい手をつけないまま、まずウィニーの開発者を有罪にすることで、プライベートでもウィニーを使う職員をすべて懲罰対象にして事態の解決をはかりたいという国側の意図を感じるのであった。