マンモスのクローン再生

 新型コロナの緊急事態宣言で学校は自宅学習とのことで、課題を作成する。お題はマンモスのクローン再生の是非について。この分野の研究者というと、社会的視野の狭いオタクが集まっている印象が強いので、研究者たちはみな手放しでやりたがってるのかと思っていたら、案外、賛否が分かれいていて、社会的意義と科学的意義の両面から議論されているという。資料2の近畿大学の先生による解説文も非常に抑制的で、環境面・倫理面で問題がクリアーできなければやるべきではないという立場をとっている。何年か前、近大の別の先生がテレビの科学番組に出演した際、やけに浮かれた調子で「あと一歩なんですよぉ、もういまからわくわくが止まりません!」と自らの研究にまったく疑問をいだいていない様子だったのとは対照的。

 資料には入れなかったが、別のナショナルジオグラフィックの記事によると、絶滅動物の再生の是非について、2013年に研究者だけでなく環境NGOも招いて国際会議も開かれたとのこと。


【課題】
 現在、世界中でマンモスをクローンで再生させようという研究が進められています。毎年、4月1日のエイプリルフールには、世界の様々な新聞の一面に「マンモスの赤ちゃん誕生!」のウソニュースが載るのが定番になっており、この研究は世界的によく知られています。日本では、近畿大学のグループが中心になって研究が行われています。

 マンモスは約400万年前から約1万年前にかけて、ユーラシア大陸北アメリカ大陸に生息していたゾウの仲間です。とくに氷河期の寒冷地に適応した毛の長いケナガマンモスが有名です。やたらと巨大なゾウを思い浮かべるかも知れませんが、これはまちがったイメージで、実際のケナガマンモスはアジアゾウくらいの大きさで、アフリカゾウよりも一回り小さく、種としてもアジアゾウに近いことがわかっています。

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ケナガマンモスの復元図 画像はWikipediaより

 クローン再生の方法は、当初、氷づけで発見されたマンモスの肉から遺伝子を取り出し、それを種の近いアジアゾウの未受精卵に核移植(かくいしょく)し、メスのアジアゾウの子宮内で発生させようとしていました。クローン羊ドリーや映画の『ジュラシック・パーク』と同じ手法です。しかし、DNAは不安定な物質なので、氷づけになっていた数万年間の間に遺伝情報は劣化してしまっており、マンモスの完全な遺伝子を入手するのは難しいことがわかりました。

 そこで現在では、読み取ったマンモスの遺伝情報を元に、ゲノム編集技術によってアジアゾウの遺伝子を改変させてマンモスに近いゾウをつくろうという研究や、iPS細胞を使ってマンモスと同じ遺伝子を持つ精子卵子をつくって人工子宮内で発生させようという研究など、複数のアプローチから研究がすすめられています。

 マンモスのクローン再生に取り組んでいる研究者たちは、この研究の意義を次のように主張しています。

  • マンモスを再生させることで、化石や骨を分析しているだけではわからなかったマンモスの様々な生態をあきらかにできる。
  • マンモスのクローンをつくるためにマンモスの遺伝子をくわしく分析することによって、ゾウがどのような進化の道すじをたどってきたのかあきらかにできる。
  • マンモスは恐竜とともにこどもたちに人気のある絶滅動物であり、マンモスを再生させれば、世界中の人々の地球環境問題への意識が高まる。
  • ゲノム編集やiPS細胞の技術は様々な遺伝病の治療にも応用できる技術であり、絶滅動物の再生の分野でこの技術が発展し、実用化できれば、医療分野でも様々な病気の治療に利用できる。

 一方、マンモスの再生には批判の声もあがっています。その批判は次のようなものです。

  • マンモスが生きていた数十万年前とは、地球の環境は大きく変化している。マンモスの生態をあきらかにするには、十数頭のマンモスの群れを自然環境に放ち、長期にわたって調査を続ける必要があるが、現在の地球上に野生のマンモスの群れが生きていける場所は存在しない。
  • もし、クローン再生したマンモスの群れをシベリアやアラスカに強引に放したら、生態系のバランスに大きなダメージを与えることになる。マンモスを環境に放つことでかえって野生のヘラジカやトナカイを絶滅に追い込む危険性もある。
  • 環境保護のために絶滅した動物のクローン再生を行うというのは、優先順位が間違っている。現生のゾウもすでに絶滅の危機にあり、絶滅の恐れのある野生動物の保護活動にこそ力を入れるべきだ。
  • マンモス、もしくはマンモスもどきの遺伝子組みかえゾウを製造したとしても、実験室や動物園のような閉鎖環境で飼育されることになる。自然環境に放つことができず、実験材料や人々の見世物にするために絶滅動物を再生させようというのは、科学的な意義にとぼしい上、倫理的に問題がある。
  • ゲノム編集やiPS細胞の技術は、はじめから医療分野に限定して利用していくべきだ。絶滅動物の再生のような人命に直接関係のない分野まで、研究者の好奇心からゲノム編集やiPS細胞を用いて既存の生命の遺伝子を作りかえるようになってしまったら、バイオテクノロジーに歯止めがきかなくなってしまう。

 あなたはマンモスを再生させようという研究をどのように評価しますか。積極的に進めていったほうがいいと思いますか。それともやめたほうがいいと思いますか。資料の記事も読んで、あなたの考えを書きなさい。(約800字)

 

 以下資料。

よみがえるマンモス  先端技術とその危うさ
トム・ミューラー ナショナルジオグラフィック日本版 2009
 絶滅した動物をクローン技術でよみがえらせることは、もはや夢物語ではない。問題は、それが果たして賢明な選択かどうかだ。
 シベリアの永久凍土から冷凍マンモスが見つかるたび、この動物を復活させるアイデアが話題になる。
 技術は着々と進んでいる。昨年11月に神戸市、理化学研究所若山照彦率いる研究チームが、16年間冷凍保存されたマウスのクローンづくりに成功した。数週間後には、米ペンシルベニア州立大学のウェブ・ミラーとステファン・シャスターらのチームが、マンモスのゲノム(全遺伝情報)の70%を解読、公開した。
 「スピルバーグ監督が、絶滅種のクローンづくりは現実になると言ったとき、私は笑ったものです」と、映画『ジュラシック・パーク』のメイキング・フィルムの科学顧問も務めた遺伝学者ヘンドリック・ポイナーは言う。「でも、今はもう笑えない。マンモスだって現実になりつつある。あとは細部を詰めていくだけです」
 だが、ポイナーも認めるように、その細部にかなりてこずりそうだ。マンモスに限らず、絶滅種のクローン作成には、大きく二つの段階がある。まず、その動物の完全なDNAの塩基配列(マンモスなら45億対以上とされる塩基配列のすべて)を解明すること。そして、この情報をもとに生きた動物を再現することだ。
 マンモスのゲノムがある程度解読されたことは、第一段階クリアに向け前進と言えるが、まだあと30%の解読作業が残っている。それに古い動物のDNAは、長い歳月の間に劣化が進むほか、バクテリアなどのDNAが紛れ込んでいるおそれもある。こうした誤差を除くには、何度か解読を重ねなければならない。
 配列がわかったら、今度はそれを染色体に収める必要があるが、現段階ではマンモスの染色体の数さえわかっていない。それでもDNAの解析技術はどんどん進んでいるので、こうした難題もいずれは克服できるだろう。「もはや技術の問題ではなく、単純に時間とカネの問題になっています」と、シャスターは言う。
 DNA情報がそろっても、そこからマンモスをよみがえらせる作業ははるかに困難だ。ただし、アフリカゾウなど現生の近縁種がいることは助けになる。ペンシルベニア州立大学チームがマンモスの断片的なDNAをつなぐ際にも、アフリカゾウのゲノムを参照した。
 生体を再現するには、たとえばゾウの染色体上のマンモスと塩基の並びが異なる箇所(推定40万カ所)を組み替えて、ゾウの細胞核をマンモスの核に改造する方法がある。また、マンモスのDNAがどのように染色体にパッケージされているかがわかれば、マンモスのゲノム全体を人工的に合成する方法もある。もっとも、技術的には今のところ、マンモスのゲノムの1000分の1ほどの長さの、細菌のゲノムをかろうじて合成できるレベルである。
 マンモスの染色体が手に入れば、それを膜で包んで人工の細胞核をつくる。それをゾウの体に移植すれば、クローンを作成できる。
 体細胞からクローンをつくる技術は、1996年にクローン羊「ドリー」を誕生させた英国のロスリン研究所チームが確立している。マンモスの場合、ゾウの卵子に人工合成したマンモスの細胞核を挿入、電気刺激を与え、卵子を分裂させてクローン胚をつくる。それを代理母役のゾウの子宮に着床させればよい。
 ただし、この手順の一つひとつに、大きな問題がつきまとう。たとえば、マンモスの細胞核を作成する技術は未開発だし、ゾウの卵子を採取するのも簡単ではない。マンモスのクローン胚をゾウの子宮に入れて、果たして妊娠させられるかどうかもわからない。
 もっと実現性の高い課題に取り組む科学者もいる。絶滅が危惧される現生動物、あるいは近年に絶滅した動物のクローンづくりだ。サンディエゴ動物園ニューオーリンズのオーデュボン絶滅危惧種研究所は、絶滅危惧種のDNAを保存している。2003年にはバイオ関連企業がこのDNAから、絶滅の危機にある東南アジアの野牛バンテンのクローンをつくった。卵子や子宮は家畜のウシのものを使った。
 同様の方法で、ジャイアントパンダやボンゴ、スマトラトラのクローンづくりも検討されている。フクロオオカミなど近年に絶滅した動物をよみがえらせることも期待できそうだ。
 今や絶滅種のクローンづくりに立ちはだかる最大の壁は、技術的な壁ではなく、倫理的な問題かもしれない。「マンモスは、ゾウと同じく社会性をもつ賢い動物です」と、ロンドン自然史博物館の古生物学者で、マンモスの専門家であるエイドリアン・リスターは話す。「クローン技術で1頭だけ再生できた場合、そのマンモスは動物園か研究所で孤独に暮らすことになります。もとの生息地は残っていませんから。見世物の動物をつくるようなものです」
 シャスター、ウェブらとマンモスのDNA抽出技術を開発したコペンハーゲン大学のトム・ギルバートは、生きたマンモスが歩く姿を一目見たいのは山々だがと断った上で、絶滅種のクローンづくりが賢明な選択かどうか、有用性があるのか、よく考えてみる必要があると語る。「マンモスをよみがえらせるなら、死んだ生き物なら何でも再生できることになります。地球がほかに大きな問題を抱えるなかで、果たしてそれが賢明な選択なのでしょうか」


マンモス再生は、どこまで現実に近づいているのか? 研究者が解説
ナショナルジオグラフィック日本版 2019
 東京・お台場の日本科学未来館で企画展「マンモス展」-その『生命』は蘇るのか- が開催されています(2019年6月7日~11月4日)。マンモスをはじめ、古代のシベリアの動物たちの冷凍標本が展示されるほか、冷凍マンモス標本を使った「マンモス復活プロジェクト」についても紹介しています。ここでは長年、研究に携わってきた近畿大学先端技術総合研究所の加藤博己氏に「マンモス再生研究の最前線」について語っていただきます。

 ケナガマンモス(Mammuthus primigenius、以下マンモスと略します)は、北半球の広範囲にわたって生息、氷河期の終了とともに減少し、4000年前に絶滅した非常に著名な動物です。永久凍土からは、マンモスの骨だけでなく筋肉などの軟組織も発掘されることから、それらの組織を用いて個体再生ができるかもしれないと、各国で研究が進んでいます。
 近畿大学では、近年急速に発達した発生工学的手法を用いれば古代の生物も再生できるのではないかと考え、20年以上にわたり、シベリアでマンモスの組織を発掘し、回収された細胞核を用いて体細胞核移植実験をおこなってきました。2019年3月には、2万8000年前のマンモス細胞核が生物学的な特性を維持していることを初めて確認した論文を、科学誌「Scientific Reports」に発表しました。ここでは、私たちの研究をはじめとするマンモス再生研究の最前線、さらにその課題についてお伝えします。

体の組織を手に入れる
 マンモスの細胞核の移植実験をおこなうには、まず、マンモスの組織を入手しなければなりません。私たちは、1997年と1999年の2回、ロシア連邦サハ共和国ヤクーツク市にあるマンモスミュージアムと共同研究をおこない、コリマ川流域でマンモスの組織の発掘を試みました。
 初めて古代の動物の皮膚の発掘に成功したのは、1999年のことでした。その一部を近畿大学へ運び、放射性炭素による年代測定をおこなったところ、この動物の皮膚は約3万年前のものであることがわかりました。しかし、この皮膚から得られたDNAの塩基配列を解析した結果、マンモスと同時期にシベリアに生息していたケサイ(Coelodonta antiquitatis)のものであると結論されました。
 マンモスとの出会いは2002年でした。岐阜県の支援を受け、ヤクーツクの北1200キロの北極圏に位置するマクスノーハ河畔からマンモスの脚を発掘しました。マンモスの脚は凍った状態のままヤクーツク市のマンモスミュージアムへ運ばれ、皮膚、筋肉、骨および骨髄の各組織が採集され、翌年に近畿大学へ運ばれました。放射性炭素年代測定によると、これらの組織は約1万5000年前のものであり、DNAの解析からマンモスのものであることも確認できました。
 いよいよ細胞核の移植実験です。私たちの研究では、あらかじめ核を除いたマウスの卵に、マンモスの細胞核を注入する方法を試みました。その結果、マンモスの細胞核が変化すれば、マンモスの組織に由来する細胞核が数万年の時をこえて、その生物学的特性を維持していることがわかる、というシナリオです。
 マンモスの組織から細胞核を採集し、全部で149個のマウス除核卵へ、慎重に注入しました。卵を培養し、核の注入後1時間と7時間において顕微鏡下でマンモスの核の変化を観察しました。しかし、すべてのマウス除核卵において、注入後に何らかの変化をおこしたマンモスの核はありませんでした。
 この実験において、注入後のマンモスの核に変化がおこらなかったのは、マンモスの核とマウスの卵の組み合わせが不適当だった可能性や、実験に用いたこのマンモスのサンプルそのものが、生物学的特性を失っている可能性が考えられました。しかし、この一例だけで結論を出してしまうのは性急に過ぎると判断し、次の機会を待ちました。

細胞核が動いた!
 2011年12月に、ロシア連邦サハ共和国科学アカデミーの研究者から、非常に状態の良いマンモスの個体が発見さたとの連絡がありました。2005年に愛知万博で展示されたマンモスの頭部「ユカギルマンモス」と同じ地域で発見された若い雌個体であることから「YUKA」と名づけられました。
 内臓はほぼ失われていましたが、四肢や鼻を含む頭部は非常によく保存されていました。2013年7月、私たちは「YUKA」から採集した筋肉組織や骨髄組織を近畿大学へ運び、さまざまな実験をおこないました。 まずわかったのは、「YUKA」が2万8000年前のマンモスであること、そして、たしかに細胞核の成分が存在していることでした。そこで、筋肉組織から回収したマンモスの細胞核を、マウス卵に注入し、マウス卵を生かしたまま細胞核の動きを観察しました。
 その結果、マンモス細胞核が新たにマウス由来の細胞核タンパク質を取り込みはじめ、なかには細胞分裂をする直前の形になるものも存在しました。さらに、マンモス細胞核の一部が最終的にマウス卵の細胞核の中に取り込まれる現象まで確認できました。

マンモス再生への道のり
 今回の研究において、いくつかのマンモスの細胞核が、永久凍土の中で2万8000年間も生物学的特性を維持してきたことが初めて明らかになりました。しかし、「YUKA」のように状態が非常に良いと考えられるサンプルでも、DNAの断片化がかなり進んでいることもわかりました。つまり、現在の核移植技術では、マンモスの体細胞クローン個体作製には至らないことを示す結果となりました。
 今後は、「YUKA」のように状態がよいサンプルから、DNAやタンパク質情報など、マンモスを構成する情報を集め、それらの情報を基に新たにマンモスの細胞を合成することを考えています。細胞が合成されれば、iPS細胞技術を用いて精子と卵を作出し、受精を経てマンモスの胚を作製します。また、並行してこのマンモスの胚を育てる人工子宮が開発されれば、マンモスを再び見ることができるかもしれません。
 「絶滅種を復活させることにどんな意味があるのか?」という声もあると思います。私たちは、マンモスは、手の届く可能性のある絶滅した動物の代表であると考えています。絶滅した動物というと、まず「恐竜」が思い浮かぶ方が多いのですが、恐竜の絶滅は6550万年前のことで、恐竜のDNAが保存されていたとの報告はこれまでになく、恐竜の生物学的な情報は希薄です。これに対して、マンモスは氷河期に生息していたため、現代に冷凍標本が発見され、それらの標本から得られた生物学的な情報が集積されつつあります。
 また、マンモスを復活させることを研究する過程で開発された様々な技術は、マンモスだけでなく、他の種の復活等にも応用が可能です。現在、先に書きました体細胞をiPS細胞化した後に精子と卵を作製し、受精卵を得ようという方法は、最後の雄個体が死に、絶滅が目前に迫ったキタシロサイの復活のためにも利用が考えられている技術です。さらに、近年人間による乱獲や外来の伝染病の蔓延などによって姿を消したニホンオオカミニホンカワウソでは、日本における「生態系の正常化」という意味において、その復活に大きな意味があると考えています。

単に蘇らせればよいということではない
 ただし、単にマンモスを蘇らせればよいということではありません。例えば、過去にマンモスが生息していた地域はマンモスステップと呼ばれる草原であったと考えられていますが、現在ではタイガと呼ばれる針葉樹林やツンドラと呼ばれる平原になっており、マンモスが生息していた頃とは気候や環境が大きく異なっています。そのような場所へ、蘇ったマンモスを放すことができるのでしょうか? そしてマンモスを放すことによって生じる現在の生態系への影響はどのようなものなのでしょう?
 もしも自然環境へ蘇ったマンモスを放すことができないのであれば、蘇ったマンモスはその一生を人工的な閉鎖環境下ですごさなければなりません。さらに、現生のゾウは群れを作って生活をしています。マンモスも、その生活に群れを必要とするのではないでしょうか?
 ほかにも課題はあります。私たちは人工子宮内でのマンモスの胚の育成を考えていますが、人工子宮から生まれたマンモスの子供はおそらく、植物の消化能力を持ちません。草食動物の多くは、消化管内で微生物の助けを借りて植物を消化しています。草食動物の子供は親の糞を食べるなどのかたちで消化管内の微生物を受け継ぎ、植物の消化能力をもつようになります。人工子宮から生まれたマンモスの子供には、どのようにして植物を消化する能力を持たせればいいのでしょうか? 絶滅した古代の動物を再生するのには、単純に再生するだけではなく、再生に伴う様々な問題を解決しなければならないのです。
 国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(SSC)が定めている「保全のための絶滅種の代用種作製に関る基本理念」は、現在の技術では絶滅種の忠実な複製を作製することはできないため、作製されうるものは絶滅種の代用種であると考えています。また、絶滅種の代用種の作製について、それが正当であるとされるのは、原種の絶滅によって失われた可能性がある生態系の働きや推移を修復することができる場合であるとしています。私たちは、このような考えに従って、絶滅動物の再生に関わる倫理的問題、環境的問題および動物福祉の問題等が解決されなければ、絶滅動物の再生をおこなってはならないと考えます。

加藤 博己(かとう ひろみ)
 近畿大学 先端技術総合研究所 生物工学技術研究センター教授。ウシやヒツジの体外受精における卵の体外成熟の研究や、世界初のウマの顕微授精による産仔作製等に関与した。約20年前から近畿大学においてマンモス復活プロジェクトに携わる。専門は生殖生理学、分子生物学、古生物学。